走って、止まって、戻ってもいい 自分の呼吸で「知」を探しに

京都のなかでも、とりわけ店主の個性が際立つ書店が集まる左京区。鴨川左岸、白川疏水、哲学の道。自転車で走ると気持ちのいいエリアでもあり、進んで、止まって、自転車のスピードで良書を探しに出かけると、知らないうちに息がしやすくなっている。

京都は街と自然が近く、とくに鴨川沿いを自転車で走ると気持ちがいい。というわけで、まずは街中でレンタサイクルし、鴨川右岸を北上する。賑やかな鴨川デルタを越え、北大路橋から一乗寺方面へ。白川疏水を辿って高野川を渡れば、「マヤルカ古書店」に到着する。目当ての海外文学の棚で『フラナリー・オコナー 楽園からの追放』を見つけて迷わず購入。店主のなかむらあきこさんに「これは探すと見つかりにくい一冊です。オコナー好きなんですか?」とにこにこと言われる。

「恵文社一乗寺店」は、京都の独立系書店の先駆け。まもなく開店50年。20年前から同じスタッフが選書する「幻想文学」のコーナーには、山尾悠子、ジョルジュ・バタイユ……夢と現実の境目がない物語の世界は、この店で本選びに夢中になる感覚と似ている。
外に出て、当時は近くに名画座があったという文化的土壌のある街の空気を吸い、左京区に個性的な書店が多いのは、京大や芸大など自由な気風のアカデミアの存在が大きいのではないかな、と思う。既存の枠からちょっとはみ出た部分を愛する大らかな空気。

修学院へ北上すると、「バヒュッテ」がある。本と雑貨と立ち飲みの店。カウンターはすでに常連客で賑わっていたが、藤本和子訳のリチャード・ブローティガン著『ビッグ・サーの南軍将軍』を手に近づくと、店主の清野郁美さんが「ありがとうございます!」と朗らかに会計してくれ、ジンジャーエールを飲んだ。

「ホホホ座」がある浄土寺には、白川疏水沿いから哲学の道を抜け、軽やかに辿り着く。店主の山下賢二さんのメッセージ性が強いようでいて実は「昭和の街の本屋さん」といった心地よさがあり、店内を何周もぶらぶらしてしまう。新刊書店だが、購入したのは古書『中山千夏・偏見レポート』。
まっすぐ戻るのが惜しく、南禅寺を経由して、平安神宮のある岡崎エリアへ。岡崎公園のベンチに座り、買ったばかりの本を広げて読むのだった。
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THE GOOD DAY VELO
所在地 京都市中京区堺町通姉小路下る大阪材木町685-1
電話番号 075-606-5345
営業時間 10:00〜18:00
定休日 月曜(祝日の場合は翌日休)
●シンプルヴェロ 1,400円/1日、予約がベター
https://thegooddayvelo.com/
2023.10.29(日)
文=中岡愛子
写真=橋本 篤
イラスト=中根ゆたか
CREA 2023年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。