ロケ地はまるで精霊がリアルに存在していてもおかしくないと思えるほどの場所
――豊かな自然の生態系が保全されている原生林での撮影で印象に残っていることを教えてください。
主な撮影場所は、京都大学が保全し管理している京都大学 フィールド科学教育研究センター芦生研究林の特別な許可を得て行われたのですが、この原生林の在来種以外の種子や菌を他所から持ち込まないように、靴は念入りに殺菌してから森の中へ入りました。これは言葉でうまく表現が出来ないんですけど、なんとも神々しいといいますか、まるで精霊がリアルに存在していてもおかしくないと思えるほど、こんなにも素晴らしい原生林がまだ日本にも残されていたのだと衝撃を受けました。素敵な場所で撮影ができる喜びもありましたが、何よりも日本人として誇らしい気持ちになりましたね。でも、そんな素晴らしい森でも、残念ながら何度も開発の危機に直面して、地元の森林組合や森林保護の団体の協力のもとで、綱渡りのように護ってきたと伺いました。
人間の私利私欲のために自然を破壊しようとするのは、『唄う六人の女』の物語ともリンクしていて、改めてこの作品に出演する意味を深く考えさせられました。
――今、精霊と言う言葉が出てきましたが、しゃべらない森の中で暮らす六人の女性を演じた女優さんたちとの撮影で印象に残っていることは?
おそらく彼女たちも、石橋監督の求めているすべてを理解して演じたというよりも、あのロケ地となった大自然の中で、瞬発的に何かを感じながら独特の動きを表現していたんじゃないかな。完成した作品を見て、みなさん、「なるほど、こうつながるのか」などと話されていたみたいです。
アオイヤマダさんは“濡れる女”という役だけあって、水中でそれはすごいパフォーマンスをしているのですが、ただ、溺れているだけの僕と違って、本当に大変だったと思います。
――女性陣が何者かを説明はできないのですが、みなさんの動きで、生物の持つテリトリーに人間が無遠慮に犯す罪は、その後、人間に戻ってくるという戒めのようなものを感じました。
人間の私欲がいかに滑稽か。それは六人の女に囚われた二人の男と対峙する女たちの存在を通して見えてきますし、きっと何かが伝わるのではないかと思います。
今回、撮影で5週間ほど毎日南丹市や奈良の奥深い山の中に入っていったんですけど、山で遊んでいた子供の頃の記憶がいろいろ蘇ってくる中で、自然と向き合う時間が、自分にとってはいかに大切なことかを改めて感じることができました。
それと同時に、この映画は自然の美しさだけではなく、自然の厳しさを伝えようとするメッセージが込められている気がするんです。石橋監督は、単に、女たちに監禁された二人の男が山から出てこられなくなる怖いサスペンススリラーを作りたかったわけではなく、失われる怖さの中から、私たちの意識の奥深くに何かを伝えたかったのではないかと、そんなふうに僕は感じました。
2023.11.14(火)
文=金原由佳
撮影=深野未季
ヘアメイク=竹野内宏明(HIROAKI TAKENOUCHI)
スタイリスト=下田梨来(Rina Shimoda)