数少ない原生林で許可を取って撮影

――竹野内さんが最も理解できなかったのは、どういうところだったのでしょうか?

 タイトルにある六人の女たちの奇妙な存在もそうなんですが、台本に書かれた台詞の言葉の裏に、もう一つ別の意味が隠されているように感じるところがあって、それは、ト書きのところどころに描かれる情景や心理描写の中にも垣間見えるような気がしていました。感覚的には理解は出来るんですけど、言葉で説明するのが難しい感じですね。

 ただ、僕がまだ小さい頃に、友達4人ほどで山の中に入って遊んでいたとき、突然、人間とは思えない言語の話し声が聞こえてきて、誰の姿も見えないのに、その声が徐々に大きくなってきたんです。咄嗟に“うわ、めちゃめちゃ怖い”なんて皆んなで大騒ぎになって、猛ダッシュで逃げた記憶があるので、感覚的に石橋監督の描きたいものはなんとなくわかるような気がしていたのですが、それでも撮影に入る前は、萱島をどう演じるのか色々迷走しました。クランクインの直前まで、石橋監督とやりとりさせていただいたんですけど、その中で印象的に残った言葉が、『この映画のテーマは、人間社会だけではない生命に目を向けようとする作品ですが、同時に生き物としての人間の愛おしさというものが湧きおこってくる作品でありたいと思います。怒りや愛情、そして人間の弱さを表現していきたい』というものでした。

――石橋監督は、竹野内さんの口から何度もでてきた『ミロクローゼ』をはじめ、「オー!マイキー」など、アート作品を手掛けてきた人ですが、念願の仕事を経て、どういう人だと感じましたか?

 僕がいうのもなんですが、石橋監督は想像していた印象とはまるで違っていました。会う前は少し癖のあるアーティスティックな人なんだろうなと勝手なイメージを持っていたんですけど、本当にこの方が数々のエッジのきいたアート作品を作ったのかなと思うほど、物腰が柔らかくてとても謙虚な印象だったんです。

 でもそんなソフトな印象であっても、監督の映像表現でのこだわりは、今回背景に映っている森選びにも現れていると思います。聞けば、今日本の森にはオオカミなどの外敵がいなくなって、増加し続けている鹿の食害に侵されていて、もう昔ながらの落葉樹の原生林は、日本でも数少ないエリアにしか残っていないそうなんです。その数少ない原生林の中から、芦生の森での撮影に監督がこだわって、特別な許可を得て撮影が実現しています。

2023.11.14(火)
文=金原由佳
撮影=深野未季
ヘアメイク=竹野内宏明(HIROAKI TAKENOUCHI)
スタイリスト=下田梨来(Rina Shimoda)