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小池先生の元で培ってきた実力が満を持して開花

――前編で「小池修一郎先生の技術や発想に改めて感動した」というようなお話がありましたが、何本も小池先生の作品に出られていても、今、なお先生には驚かされることが多いのでしょうか?

 先生の発想は本当にすごいと思います。その発想を現実化して、お客様に見せていくわけですから、それは本当に素晴らしいですよね。もちろんアイデアも豊富にお持ちですし。いつも驚かされます。

――今回の作品のお稽古に入るにあたって、小池先生から何かアドバイスがあったりしましたか?

 ルパン像については「こうあってほしい」というリクエストはありました。ほかの作品のときも「こうしてほしい」というリクエストもありますし、「とりあえずいろいろやってみてほしい」ということもおっしゃいます。

 今回の作品に関しても“大枠でのルパン像”はありながら、周りの役とのバランスを見ながら「次はこうやってみて」「今度はこうやって」と指導いただいています。ひとつの像だけではなく、いろんなタイプを見せてほしい、という感じなのだと思います。先生もどんな表現をするかを決めるために様々な印象の“ルパン”を見てみたいと思っていらっしゃるのでしょうね。

――古川さんが小池先生から、「こういうことを学んでいる」と思うことを教えてください。

 そうですね……。小池先生からは本当にたくさんのことを学んでるのですが……。改めて聞かれると難しいですね(笑)。でも「エリザベート」のルドルフ役の頃からWキャストやトリプルキャストでやることが多い中で、敢えて違う方向へ行こうとしていたところを先生に正していただいたことがあります。

 それは、個性というものをにじみ出させる演技というか……。でも、そのときの先生のご指摘は、今も演技をする上ではずっとヒントにしているところです。

――以前、古川さんにお話を伺ったとき、「年齢を重ねるに従って、演技することが楽しくなってきた」「年齢に応じた役というのがあるから、それを楽しみたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。今、このタイミングで“ルパン”という役を与えられたことはどのように捉えていらっしゃいますか?

 “ルパン”はトートと同じく、年齢不詳なところはありますからね……。ただ、ルパンの設定上の年齢と自分の年齢を比べると、実はピッタリ同じくらいなんです。もしかしたら僕に合わせて、年齢を設定してくださったのかもしれませんが。

 でも、もしもっと若い、5~6年前にこのルパンを演じていたとしたら、やはり自分の中でパフォーマンスの精度が違っていたのでは、と思います。今は舞台だけではなく映像などにも挑戦してきましたから、舞台の上に立つ感覚も全然違っています。

 例えば『モーツァルト!』を始めた30歳くらいの、とにかく必死に食らいついていた、この作品をどうにか乗り切ろうと挑んでいた時期から比べると、少し余裕がある“今”、このタイミングでルパンを演じるほうが格段に成長できるのかなと思います。

――“ルパン”という役柄的にも『モーツァルト!』とはまったく違いますよね。

 そうですね。ルパンは淡々と何でもこなすことのできる、“悪”だけども、ある意味ヒーローでもあるわけで、そんな役柄を僕が必死に演じても、観ているお客様は「?」となってしまう気がするんです。

 じゃあ自信満々にできるのかと言えば、もちろんそんなことはないのですが(笑)。「どうしよう」「この役、出来るかな」という想いが強かった以前と比べると、いろんな経験を積んで、今ならできるんじゃないかと思います。だから、自分でも本当に楽しみです!

――では、まさに“時が来た!”という感じですね。

 (笑)。そうかもしれませんね。いいタイミングだと思います。

2023.11.08(水)
文=前田美保
写真=深野未季
ヘアメイク=佐鳥麻子
スタイリスト=小林伸崇