「世界に向けた宣言だった。可愛くいてほしい? くそったれ。良い子でいてほしい? くそったれ。夢のような女の子でいてほしい? くそったれ」。
それでもバッシングがおさまることはなかった。むしろ、本人が出演した音楽番組で「ブリトニーの二人の息子はかわいらしき大失敗」だとジョークにされるほどの状況になっていた。
成年後見制度下で始まった、ブリトニーの「沈黙」
2008年には精神科病院に運ばれて父親の保護下に入ったが、それでもブリトニーは働きつづけた。同年中に新アルバムを発売し、翌年にはおおよそ100公演におよぶワールドツアーを、2010年代にはラスベガスで5年間もの常設公演を成功させた。大きな違いは、本人が公の場でほとんど発言しなくなったことだった。ライブ中のMCで「歌以外でマイクを使うなんて違法に感じる」とこぼしたり、新公演おひろめのレッドカーペットですら無言で終わらせることもあった。
家族の健康を理由に新公演が中止された2019年、ブリトニーが不当に親の支配下に置かれていると訴える「フリー・ブリトニー(ブリトニーを解放せよ)」運動が活性化した。じつはこの運動、長らく「狂信的ファンの陰謀論」扱いを受けてきたのだが、2020年代にファンの訴えを裏付ける調査報道が出たことで状況が一変。パリス・ヒルトンやマライア・キャリーなど、本人と親しいスターも支持を表明していく社会規模の動きになっていった。
ブリトニーの父親は、2008年の強制入院を機に娘の成年後見人となっていた。この後見人とは、ある人の資産などにまつわる決定権を裁判所にゆだねられた保護・支援者を指す。
一般的に、衣食住をまかなえない無職の人に適用される制度であるため、激務をこなして大金を稼ぎながら保護下におかれているブリトニーはかなりの特例だった。たとえば2013年から2017年にかけてみずから監修した公演を約250回行って約1.4億ドル(約200億円)もの興行収入をあげたにもかかわらず、疑問が残る認知症の診断などを根拠に保護が必要とされ、13年ものあいだ父親に資産や仕事を管理されていたのだ。
2023.10.27(金)
文=辰巳JUNK