さあ久しぶりの一杯だ。うつわは新調したようで晴れやかなデザインになっている。天ぷらは閉店前・再開後も横浜の天ぷら仕出し老舗「天ぷらいわた」製である。再開後さらに磨きがかかっているのかカラッと揚がっている。
「横浜四大立ち食いそば屋」の1つである
つゆをひとくち。秘伝の節系を使いすべて自家製で出汁をとる。この味だ。沁みる味。桜木町の味である。横浜四大立ち食いそば(他横浜駅前「鈴一」、東神奈川駅「日栄軒」、関内「相州そば」)を代表する味だ。どれも欠けてはならない必須店である。
そばも閉店前と同じ大手製麺の茹で麺だがコシもある。湯通しの加減が絶妙なのだろう。天ぷらはシンプルだがつゆに浸していくうちに徐々にほぐれていく。それをかじる。揚げ置き天ぷらの美学といってもいい。
昔のことを思い出しながら食べていると、外テーブルも一気に混んできた。店内も程よい賑わいをみせている。
「天ぷらそば」を食べ終えた頃、6代目笠原成元さん(70歳)と7代目となる次女の加々本愛子さん(31歳)がにこやかに迎えてくれた。
そばの味の向上を図った6代目
6代目笠原成元さんは店への愛情を熱く語る。ご存じの方も多いと思うが、6代目が「川村屋」の廃業の危機を救いそばの味をグンと向上させた。「川村屋」に黄金期があるとするならば、初代の洋食レストランをスタートした草創期と、そばの味の向上を図った6代目の奮闘期だと考えている(歴史については後述)。
「とにかくウチはベテランスタッフに支えられてきました。秘伝のつゆも妥協することなく味の研究を重ねてきました」と笠原さんはいう。立ち食いそばは手頃な値段で提供する。しかも駅そばであれば年齢性別を問わず幅広い層が利用する。華美なものではウケないし、提供に時間がかかるのもよくない。かといって味が落ちればすぐに察知されて足が遠のく。そういう意味でバランスのとれた立ち食いそばの味を見極めるのは至難の業ともいえる。
2023.10.12(木)
文=坂崎仁紀