それまでツイッター社には、新しい試みを決められる人が誰もいなかった。けれども、マスクは現れるなり次から次へと決断を下していった。

「私は異次元の拷問を自分に科してます」

 マスクはリストラの進め方も容赦がなかった。2500人いる技術陣が、平均するとコードを1日に3行も書いていないことを把握すると、技術陣の90%(!)を減らすという目標さえ掲げた(コーヒーバーでの女性社員との会話から3週間後には、「75%をクビ」との数字は正しかったと証明されることとなる)。

 しかし同時に、ツイッター再建に奮闘するマスクに次々と試練が襲う。

 ツイッター上での検閲に反対だというマスクの公言を受けて、本当かどうか試そうというトロールや扇動家やボットが差別発言を大量にツイート。マスクは、ツイッターから逃げようとする広告主への対応に追われた。ツイッターブルー(新しい認証システム)を採用した際にも大炎上した。

 買収から2週間。マスクはツイッター本社に詰め、寸暇を惜しんで仕事を続けていた。テスラ、スペースX、ニューラリンクの仕事もしつつ、である。けれども広告引き上げ、重なる大炎上などで、心身ともに疲れ切っていた。

「ツイッター地獄からどこかで抜け出したいよ」

 と、弱音を吐くことも。そして、さらにはこうも言ったという。

「私は異次元の拷問を自分に科しています」

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2023.10.03(火)
文=「文春オンライン」編集部