最後に三つめは、これも一つめ二つめと連動していることですが、「現代の諸問題を考えるうえで手がかりを与えてくれる」ということです。例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領を招くなど広島サミットで世界に対するアピールに成功した岸田文雄首相や、まさに「日本の顔」として各国とのトップ外交に努めた安倍晋三元首相の外交手腕は、内政に対する賛否両論を抜きにして正当に評価されるべきものと筆者は考えますが、そうした外交能力は、この国の国際的環境の中で鍛えられてきたものであるということが、古代以来の対外関係を概観することで見えてきます。

 実は、そのような現実的な関心に基づく出題というのが、入試問題には散見されます。例えば、平成から令和への移り変わりに際して、皇室のあり方や皇位継承のあり方が広く議論の対象となりましたが、そうした中で、古代や中世において皇位継承がどのようにして行われていたのかということが、一大テーマとなっていました。歴史を通して今を考える、それもまた歴史を学ぶ意味です。

 本書では、これら三つの基準に即して、大人の学び直しにも耐えうる「良い問題」を古代から近世まで十二問、精選しました。

 まず、一つめに関しては、後醍醐天皇の「建武の新政」が長続きしなかった理由を問う中世2や、田沼意次の財政政策を問う近世3の問題を通して、従来の教科書とは異なる後醍醐天皇像、田沼意次像が見えてくるでしょう。あるいは、律令制(太政官制)と摂関政治の関係を問う古代3の問題なども、新鮮に映るかもしれません。

 次に、二つめに関しては、本書は古墳の変遷を通じて古代国家の進展を問う古代1の問題からスタートします。その後、古代の農村社会の変容を問う古代4や、江戸幕府の支配体制の根幹を問う近世1、享保の改革における物価政策を問う近世2の問題などから、この国の歴史がどのような原理で動いてきたのかを理解することができるはずです。また、院政期から鎌倉時代にかけての宗教・文化の受容層の広がりについて問う中世4の問題からは、この国の文化の成り立ちを知ることができるでしょう。

2023.09.18(月)