加藤 従来の謎解きファンであれば、圧倒的に複数でやる人が多いと思います。九割は、誰かと話し合いながら楽しむと思いますよ。

 道尾 僕がやるとしたら絶対に一人がいい。全部の推理を自分でしたいし、他の人が謎を解いてしまったら僕はアハ体験を一つ逃すことになりますし。昔からあまり人と共有をしたくないタイプなんです。ただ、リアル脱出ゲームはタイムリミットがあるから、時には人を頼らないと間に合わない。協働すること自体が僕には新鮮な面白さでもありました。

 加藤 僕らは百五十人いる会社で常に協働しているので、逆に道尾さんの“一人で全部”に驚くんですよね。

 道尾さんは、思いつきのためのルーティーンって何か決めていますか? 僕が社内でよく言うのは、閃き、思いつきというのは神の啓示のように降ってくるものではない、思いつくための段取りを習慣化しなくてはいけないということ。散歩とかお風呂とか、決まったメンバーで二時間ブレストすれば必ずアイデアが出るとか、何でもいいけどルーティーンが必要だと。

 道尾 最近、脳科学の分野で発見されたデフォルト・モードというのを実践しています。何もしていない時の脳を指してそう呼ぶんですけど、実は脳は仕事中などに較べて“何もしていない”状態のほうが十倍、二十倍のエネルギーを消費していると判明した。どうやら、人間がぼーっとしている間に脳は回路を組み直す作業をしているらしいんです。このデフォルト・モードの時に閃きが出やすいということを知ったので、なるべく何もしない時間を作るようにしています。

 加藤 どのくらいのレベルで何もしないんですか?

 道尾 インプットを全部オフにするので、スマホもさわらないし音楽も聴かない、ただソファに寝転がってぽかんと天井を見上げるだけ。

 加藤 すごい。脳科学に基づくルーティーンが出てくるとは思いませんでした。大至急、会社でも調べてみます。


みちおしゅうすけ 一九七五年生まれ、東京都出身。二〇〇七年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、〇九年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、一〇年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、一一年『月と蟹』で直木賞を受賞。

かとうたかお 一九七四年岐阜県生まれ。二〇〇二年、バンド「ロボピッチャー」結成。〇四年、フリーペーパー「SCRAP」創刊。〇七年「リアル脱出ゲーム」開催。〇八年、イベント企画運営や編集などを手がける株式会社SCRAP設立。


(「オール讀物」7月号より)

オール讀物2023年7月号(ミステリー新世紀&第10回高校生直木賞)

定価 1,100円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2023.08.11(金)