道尾 能動的というのは僕もこの数年考えてきたことで、最初に実践したのが『いけない』でした。書かれた文字をただ読む作業を、どうすれば体験にまで引き上げられるか。『いけないⅡ』を書いたのは、物語に――加藤さんの言うところのパートナーみたいに――写真を組み合わせる形でまだまだ面白いことができると思ったからですし、今は“音”をパートナーとして『きこえる』という本を制作中です。これも、カギとなる曲を自分で作詞作曲したりしています。さすがにボーカルは別の方に依頼しましたけど。

 加藤 めちゃくちゃ楽しみですね。『いけないⅡ』も前作とはまた違った趣向があって。第二章の子供たちの夏の冒険がすごく好き……好きだからこそ「どうか不幸なことが起きませんように」と祈るように読みました。「でも道尾さんはやるからな」と半ば覚悟しつつ(笑)。

 SNSの反響などでは、「DETECTIVE X」の後に、最初に読んでみる道尾さんの本として『いけない』を選ぶ人が多いみたいですね。

 道尾 犯罪捜査ゲームで一番惹かれるのは、自分で能動的に解決する気持ちよさだから、“能動的”つながりの一冊にいくのかもしれないですね。

“体験型”エンタメの今後

 加藤 「DETECTIVE X」の企画と前後して、SCRAP社内にミステリー研究会が発足したんですよ。月に一冊、課題図書を読んで集まって飲むだけなんですが、同じ読書体験をした人が集まって喋るだけで、こんなに豊かな時間になるのかと驚くほど楽しい。読書というのはとても個人的な体験だけど、同じ時間軸、同じ空間で楽しむ方向を模索すると新しい展開もありえるのかなと。十五年以上、体験共有の可能性を信じてリアル脱出ゲームというものを作ってきたけど、リアルタイムでの物語の共有には、僕らがまだ気づいていないエンターテインメントの可能性があるんじゃないかと考えています。

 道尾 小説もゲームもユーザーのものなので、作者側から使い方を云々するものではないですよね。でも、最大限に楽しめる方法をユーザー自ら考えてくれるのは嬉しい。例えば、あるミステリー作家が「DETECTIVE X」を二セット買って大きな会議室に集まって二チームで挑戦したそうです。僕は全然想定していなかったやり方だけどとても楽しそう。たぶん、解決後にチーム同士で話し合ったりするんでしょうね。

2023.08.11(金)