道尾 ラフをつくったあとの、“デバッグ”が僕にとっては新鮮でした。試作段階のゲームを、初見の人がプレイしてエラーやバグを見つけて修正する作業。小説でいうと、数人に一斉に原稿を読んでもらって、その表情を著者が観察したり、意見を集めたりする、みたいなあり得ないプロセスを、ゲームの世界では必須のものとして行うんですね。
加藤 僕らにとってデバッグは日常です。自分の思いついたことが面白いのか否か、プレイヤーに面白さが伝わるのかを確認する。個人のアイデアを爆発させることと、客観的に眺めて修正するということを日々繰り返しています。
道尾 デバッグで洗い出される改良点そのものは、細かいことばかりなんですけど、僕にとってはプレイヤーの反応を目の前で確かめられるのが嬉しくて。じつは僕、「最後の謎を解いた瞬間の顔」を目撃したんですよ。カッと目を見開いて息をのんで、猛烈な勢いでスマホを手に取って答を入力して見事に事件解決! その興奮を目の当たりにして、すごいものを作っている実感を得られたのが、デバッグの最大の効能でした。
ゲームと小説の還流
加藤 「DETECTIVE X」は七割近くが弊社店舗や通販サイトで購入されている感じで、まずは謎解きファンが熱く反応してくれました。去年十一月の発売後すぐにSNSでわっと広まった。普段からリアル脱出ゲームなどに馴染んでいるファンというのは独自のリテラシーが発達した人々で、物語について評するときに「何が良かった、どこに驚いた」と言うことも許されない文化があるんです。極論すれば後味の良し悪しを言うことさえネタバレに当たる。我々の業界では「衝撃のどんでん返し」も禁句ですから。その結果、物語の魅力を「道尾秀介、凄い」という言葉に集約して発信している印象です。
道尾 販売データによると購入者の中で、僕の小説の読者は四割くらいでしたよね。六割は僕の名前関係なく、SCRAPが何か凄いものを出したぞ、と買っている。すると、普段から小説をよく読む層とは違った面白い感想が聞けるんです。「何も言えねえ!」みたいなハイテンションで感情丸出しのコメントが多くて、見ていて楽しくなります。
2023.08.11(金)