道尾 SCRAPの作品はどれも凄いんだけど、特に印象に残っているのは「RED ROOM」。これはロングランの傑作ですよね。このメインの仕掛けが、「先に思いつきたかった」と心の底から悔しくなるような、とんでもないものでした。

 加藤 現在(二〇二三年六月)もリアル脱出ゲーム浅草店、名古屋店で開催中です。

 道尾 詳細は伏せますが、謎が解けたときの興奮は今でも覚えています。現代の小説にとって、ライバルは小説のみならずエンタメ全般なので、意図的に違う分野を体験するようにしているんです。中でも割と大きな部分を占めているのがリアル脱出ゲーム。行く度に「こんな凄いもの相手に競っているんだ」という感覚があって、小説もどんどん進化させないとと奮い立ちます。

「リアル脱出ゲーム」というのはSCRAP発祥として今やギネスにも載っているし、商標登録もされているけど、他方で色んな会社が“脱出ゲーム”を作っている。いわば真似されていることについてはどう考えていますか? ミステリー小説の世界では、他人が考えた創作物が面白いからといって似たものを書こうなんて、発想自体がご法度なわけですが……。

 加藤 昔はピリピリした気持ちもあったんですけど、真似をやめてほしいというよりは、もうちょっとカッコよく作ればいいのにと思ってましたね。でもある時、「加藤さんは手塚治虫と同じだからね」と言ってもらったことがあって。

 道尾 なるほど。漫画という、ジャンルそのものを世に広げた人。

 加藤 漫画界の中で競争するのではなく、漫画自体を一気にぐんとエンターテインメントに押し上げた。ミステリーで例えるならエドガー・アラン・ポーみたいな……って自分で言うとだいぶ烏滸(おこ)がましいですね(笑)。僕が作った土台の上でみんなが脱出ゲームを作っていると思ったら、世界中で誰がヒット作を出しても、僕の中では僕の手柄なんですよ。たとえ一円も入ってこなくても(笑)。

2023.08.11(金)