2階は宿泊施設になっており、泊まりはもちろん、休憩と入浴だけでも利用可能だ。入り口では、創業25周年(開店は1976年)特別企画が、今でも毎日開催中とある。

 2階へと上がると、銀色の壁に緑色のカーペットという独特なレトロ感溢れる細い廊下の両側に、9部屋の客室が並ぶ。和室と洋室、そして「特別室」と書かれた客室はどれも、歴史を重ねてきたヤニ色に染まっている。

 1階にはゲームコーナーとレトロ自販機が並ぶ飲食コーナー。中でも焼き立ての状態で出てくるトーストサンドの自販機は珍しく、私も遭遇したら必ず買うようにしている。ボタンを押しておよそ1分。アルミホイルに包まれた、持てないくらいアッツアツのトーストサンドには、ハムが申し訳無さそうに1枚入っているのみ。

 私はこれで食欲を満たそうとしているわけではない。自販機でトーストサンドを買うという体験に価値があるのだ。

 

●西郊ロッヂング(東京都杉並区)

 東京都杉並区荻窪に建つ西郊ロッヂングは、昭和5年に建てられた元高級下宿屋。“西郊ロッヂング”と書かれた銅版葺きドームを掲げた館は昭和13年にできた新館であり、現在は賃貸マンションとして貸出中だ。

 隣接する純和風な入り口が、泊まれる文化財、西郊ロッヂングの本館、旅館西郊(せいこう)である。元々はすべて洋間の洋館だったが、少しずつ手を入れられ現在ではその面影もわからないほど和風の旅館へと変身した。

 隅々にまで行き渡る意匠の数々が素晴らしいと、建築好き、レトロ好き、日本好きの外国人まで幅広く人気がある。上品な女将に迎え入れられると、足元は桜の寄せ木で作られた広い床、赤いじゅうたんが敷き詰められた階段、煌々と光る洋風の照明が高級感を演出している。

 玄関の隣には、かつては食堂として使われていた、洋間の高級下宿屋時代の名残がうかがえるロビー。部屋と廊下の天井や柱、欄間には隅々まで意匠がほどこされ職人技が光る。各部屋の作りはそれぞれ異なっており、粋な遊び心が存分に味わえる貴重な物件だ。何度でも足を運び、いろんな部屋に泊まってみたい。

2023.07.15(土)
文=あさみん