YOASOBIと『【推しの子】』のある共通点

 また、作品自体の盛り上がりと並行して機能しているのが、音楽やタイアップ等がもたらす話題性だ。例えばYOASOBIによるオープニング主題歌「アイドル」が、Billboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数2億回を突破したこと。さらに本楽曲の英語版は、2023年6月10日付の米ビルボード・グローバル・チャート「Global Excl. U.S.」で日本語楽曲で初となる首位を獲得したという。

 こうしたニュースは『【推しの子】』の認知度の向上や視聴につながっていくし、そもそもYOASOBIは「小説をテーマに音楽を作る」がコンセプトのユニット。「アイドル」は赤坂アカ書き下ろしの『【推しの子】』スピンオフ小説「45510」を原作としており、両者のリンクは非常に強い。

 この「45510」もアニメのOP映像に一瞬映っており、「アイドル」のMVもアニメと同じスタジオ・動画工房が制作。かつ、原作とアニメでは観られない「泣ける」シーンが収められており、アニメ視聴者にも必見の内容になっている。

 またエンディング主題歌である女王蜂の「メフィスト」も本編と歌詞のリンク、MVで描かれる“事件”が第1話とオーバーラップする仕様になっている。そしてこの「メフィスト」においては、各エピソードのクライマックスシーンでイントロが印象的に使われており(エンディング映像より先に楽曲が流れ始める)、劇伴としての強さも見せつけた。

 アニメ『【推しの子】』でトップクラスに話題を集めたのは第7話のラストシーンで俳優の黒川あかねが類いまれなる憑依演技を披露するシーンだろうが、“化ける”瞬間に「メフィスト」が流れ始め、曲の展開とシーンの展開が完璧に合わさった演出が施されている。あかねの声を担当する石見舞菜香の名演はもとより、本シーンに顕著な各部署の連携と総合力も『【推しの子】』の武器だ。

 プロモーション回りの上手さも目立つ。公式YouTubeチャンネルではスタッフ・キャストのインタビュー、アフレコレポートにメイキングといったものから、劇中キャラのインフルエンサー・MEMちょをVチューバー化させた番組や、ユーチューバーのぴえヨンを実写化した番組等々、バラエティに富んだラインナップを揃え、いずれも万単位の再生回数を獲得。Twitterにおいては名シーンをGIF化したり、各エピソードの推しシーンを決める「推しボタン」といった視聴者参加型のイベントを仕掛けている。

 タイアップにおいては、ダイドードリンコやホットペッパービューティー、タワーレコード、読売ジャイアンツ等々、様々な企業とコラボ。PARCOでは「【推しの子】展 嘘とアイ」を開催した。興味深いのは、劇中キャラが芸能人であることから「ダイドーさんとのコラボが決まりました!」といったようなメタ的なストーリーを組めて「劇中キャラがこちらの次元で活躍している」感を演出できる点。

 アイドルアニメ等では時々見られる手法かもしれないが、こうした作品が現実に拡張するような展開もファン心をくすぐるものだ。その最たるものが、「重曹ちゃん」のあだ名で呼ばれる有馬かながカネヨ石鹸とコラボし、台所用洗剤のパッケージに“起用”されたことであろう。

2023.06.28(水)
文=SYO