『【推しの子】』が支持を集めている理由とは

 「漫画原作ドラマ」「恋愛リアリティショー」「アイドルフェス」「2.5次元舞台」といった様々なフィールドを「編」とし、アイドルや俳優をはじめ、ミュージシャンにモデル、ユーチューバーやコスプレイヤーまで、芸能界(とその周辺)の住人たちの生き様や競争原理のなかで生じる人格や行動の変化といった“リアル”を映し出していく。

 ドラマや映画等のキャスティングにおけるバーター(抱き合わせ)、リアリティショーにおける出演者のリスクと制作陣の思惑、TwitterやYouTube、TikTokといったSNSを活用したイメージ戦略(とそこに伴う炎上等の危険性)、恋愛スキャンダル、脚本家や漫画家(原作者)、監督に演出家、プロデューサーにADといったクリエイター・スタッフたちの苦労等々、“いま”という時代の芸能界が高解像度で描かれており、幻想を作り出す人々が置かれている環境の容赦のなさが、ある種の時代が求めるシリアスさとマッチしている。要は、夢を夢のままで甘く描かないということ。シビアな時代の空気感にアジャストした内容であることも、『【推しの子】』が支持を集めている理由の一つだろう。

 人気作家同士のコラボ、芸能界の裏側を描くセンセーショナルな内容、チャレンジのしやすさ――。作品自体の面白さと“仕掛け”の両面で強さを発揮した『【推しの子】』は、アニメ化待望論が生まれるのも自然な流れであり、ファンにとっては満を持しての放送だったことだろう。ただ、原作から追いかけているファン以上に広がっていかなければ、アニメ放送時に現象化までには至らない。特に近年は動画配信サービスの充実から時間に縛られる「リアタイ鑑賞」より自分の空き時間に観られる「見逃し配信」を選ぶユーザーが増えており、SNS等で同タイミングで盛り上がるような事象が減りつつある。

 となれば、アーリーアダプター(例:原作ファン)のようなコア層からライト層に広げようとすれば、継続的な人気の獲得が必要になってくる。「このタイミングで観ないと他に手段がない」状況から生まれる瞬間的な大波の盛り上がりではなく、「様々な人が自分のタイミングで観続けている」という小波であっても恒常的な盛り上がりだ。例えば「周りのみんなが観ているから自分も観てみようかな」と思ったときに、第1話から簡単に観られるのが配信時代のメリット。『【推しの子】』においては先に観た人間の口コミが次の視聴者を生むという好循環が生まれており、日々ファンを獲得し続けている印象だ。

 そもそもアニメ『【推しの子】』は、第2話以降は通常のアニメ1話と同じ24分だが、第1話のみ82分。第1話を劇場で先行上映してからテレビ放送(地上波と同時にAbemaで単独最速配信)する流れをとっている。『鬼滅の刃』がこれに近い動きだったが、珍しい形であるのは確かだ。アイが亡くなるまでを1本で描ききるという構成自体(2話目以降はアクアとルビーの物語になる)はキリがよいものの、「長い」という理由で“0話切り(作品を観る前に視聴リストから外すこと)”してしまう視聴者もいなくはないであろうと考えると、勇気のいる試みでもあっただろう。

 ただ同時に、レア度=独自性を含めて話題になったり、「劇場の大スクリーンで流しても遜色ないクオリティである」ことを示す機会にもなったりと、メリットも多数。『【推しの子】』はこうした“賭け”に勝った作品といえるかもしれない。

2023.06.28(水)
文=SYO