──「ここ」はご実家?

 

三石 そうです。居心地が良かったし、出る理由もなかったのでずっと実家暮らしでした。だから、それが初めてひとりの暮らし。何もかも新鮮で、療養後は元に戻ったというよりも、全く違う生活、時の流れの中ですね。

 仕事へのスタンスも変わりました。主役だろうが、自分がいなくても作品は続いている現実を目の当たりにして、役への愛し方に変化が生まれました。ひとつひとつのご縁がかけがえのないものに感じられるようになった。そこからは、頂いた役には私らしく、その瞬間だけは誰よりも深く入り込めたらといいなという思いでいます。
 

──気持ちの面でも大きな変化があったんですね。

三石 それまでは、クレジットで自分の名前を見て、喜びと同時に自己満足のような、自己顕示欲を満たす側面がどこかにあったんですよ、私の中で。でも療養を経てからは「この作品と役があったから私がいられる」「キャラは声優の所有物ではない」というスタンスです。

 声優は基本的に、作品があった上で成り立つ職業だから、この先もどんな役が来るかわからない。いつも玉手箱を開くような気持ちで楽しんでいます。

──2008年には独立してフリーになりました。子育てなどの家庭面と、仕事を両立させるには、フリーのほうがやりやすいのでしょうか。

三石 芸能事務所に所属すると、役者の24時間すべてを事務所のものとして考えないという風潮がありました。いつ何の仕事が入るかわからないですからね。個人的な用事や子どもの行事のために「スケジュールNG(この日は仕事は入れないようにしたい)」も、言い出しにくい空気があります。

 ある程度のキャリアがあれば前もって伝えれば調整できますが、新人だと次の仕事が来ないかもしれない不安とストレスになる。幼稚園や小学校は、月の頭に初めてわかる予定もありますよね。ママ達が集まってお遊戯会の準備をするとか保護者会とか。

 フリーになってスケジュール調整のストレスはなくなり、子供の行事優先で生活できるようになりました。その代わり請求作業など事務所のありがたみを痛感しましたね。

2023.06.26(月)
文=川俣綾加