国宝 阿弥陀如来坐像光背飛天 南4 平安時代 天喜元年(1053) 京都・平等院蔵(会期全日展示)

 高畑勲氏が監督したスタジオジブリの新作映画『かぐや姫の物語』のラストシーンでは、月の世界から姫の迎えが地上へ降りてくる。紫色の雲に乗った一団の周囲には、透き通る天衣をなびかせ、楽を奏でる者たちがいたのを覚えているだろうか。これが「飛天」だ。

 鳥のように空を自由に飛び回る存在について、さまざまな時代、さまざまな地域に生きる人々が、自分たちの流儀でその姿を思い描いてきた。飛ぶためのどんな道具も必要とせず、身ひとつで虚空を飛び回る者。背に翼を生やし、天衣をまとい、あるいは天馬や龍、雲に乗って天空を翔る者。巨大な飛行機械の鈍重さとは無縁な軽やかさが、空行く者の身上だ。

 同じくスタジオジブリの宮崎駿監督による『風の谷のナウシカ』のヒロイン、ナウシカ(彼女も「風を招く鳥の人」、すなわち飛天の一種として伝承に語られる存在だ)が乗る「メーヴェ」の、「風を切り裂く」のではなく「風に乗る」飛翔も、飛天の系譜に連なるもののひとつだろう。私たちの心のうちには、いまも飛天への憧れが息づいているのだ。

 この展覧会「平等院鳳凰堂平成修理完成記念 天上の舞 飛天の美」で取り上げているのは、基本的に仏教世界に登場する「飛天(天人)」、そして楽を奏する「菩薩」だが、そこには地理的にも宗教的にも、遠く離れた場所で育まれたイメージが影響を与えている。

仏伝浮彫「マーラの誘惑・降魔成道・初転法輪」 ガンダーラ 2~3世紀 龍谷大学蔵(会期全日展示)
大きな画像を見る

 たとえば仏教以前のインド神話に登場する、天翔る神、あるいは精霊のような存在。そしてギリシャ、エジプト、現在のアフガニスタン、パキスタンまでを征服したアレクサンドロス大王の帝国と接することで生まれた、オリエントの文化にルーツを持つ有翼の飛天。こうしたイメージが仏教の中に流れ込み、6層レイヤーの煩悩世界(六道)の最上階に位置する天界の住人で、天衣をひるがえして浮遊する「飛天/天人」や、輪廻のある六道世界から離れた極楽浄土で楽を奏で、散華しながら如来に付き従う「菩薩」などの図像が作り出されていった。展覧会ではこうして生まれた飛天の姿とその変遷を、釈迦誕生の地インドから、仏教の東遷に従ってガンダーラ、中央アジア、中国、そして朝鮮半島から日本へ舞い降り、現在大修理中の京都・平等院鳳凰堂に至るまでを紹介している。

<次のページ> インドから日本へ――飛天の源流と伝播

2013.12.14(土)