新谷 おさむさんの贖罪意識、自分も加害者側で罪を背負う側だというのはよく伝わってきます。小説のなかで言うと、

 僕らはなぜその言葉を言わなければいけないのかを話さなかった。言えなかった。

 すると、彼は、その目を僕らに向けた。

 そして言った。

 「わかった」

 と、一言だけ。

 彼は分かっていたはずだ。自分がその言葉を言うことでどうなるのか?

 この言葉を誰が言わせようとしているのか?

 理由も聞かなかった。

 そして、僕らが彼の優しさに甘えて、お願いをしに行ったことも。あの目は全部分かっていた。

 なのに。なのに、「わかった」と言ってくれた。

 私もここの場面は読んでいてつらかった。

鈴木 そこは、でも熟考したわけでもなく。

新谷 淡々と書いていますね。でも、小説としてのクオリティも高いと私は思っています。編集部に来た感想としては、よく書いてくれたという声が多かったですよ。

鈴木 最初はショックというか、ハレーションもすごく起きていたんですが、時がたつにつれ、理解してくれる人が増えていきました。

 僕の知り合いの人でも、「あんなの、何で書いたの?」という人もいますし、反応は分かれます。でも、20代の若い起業家の人たちと話すと、とても応援してくれます。若い人たちから見ると芸能界って今でも唯一、変化していく時代に閉ざされているところが多いじゃないですか。だから、僕が書いた勇気を評価してくれるというか。

鈴木おさむさんと「文藝春秋」編集長の新谷学によるウェビナーのテキスト版全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

2023.05.23(火)
文=鈴木おさむ、新谷 学