高校2年生の夏休みにはアメリカの大学が主催した女子高校生のための科学プログラムのサマーキャンプに参加し、犬のロボットを作製しました。このサマーキャンプを通じて科学的な探究と創作の楽しさに目を開かされ、科学への思いを再認識した私は、科学を通して人間を理解し、人間と社会を支える医師になろうと決意しました。

 科学が大好きでソーシャルジャスティスの意志が芯にある私は、科学が軽視されることにより、誰かが苦しむ様子はどうしても黙って見ていられません。日本のワクチン忌避を放っておけなかったのもそのためです。

オンラインヘイトとメンタルヘルスの関係

 そして、私自身にも向けられたヘイトや誹謗中傷発言についても、いじめと同じ構図を感じ、ときにはそれが本人の意図や同意と関係なく拡散されて「炎上」といった現象になっていく様子は、メンタルヘルスとの関係からも見過ごせないと思うようになりました。

 ネットメディアやソーシャルメディアでの人間関係の衝突や敬意を欠いた言動は、パンデミックが進行してから、各国で増えているという調査結果が出ています。例えばアメリカではオンライン上の会話で相手を中傷する発言がパンデミック前と比べて70%も増え、オンラインゲームなどでの喧嘩や悪口などが40%も増えたと報告されています。また、アジア人に向けられたネット上でのヘイトスピーチはアメリカでは倍増したそうです。

 これは延々と続くコロナ禍の不安やもどかしさ、人々のメンタルヘルスの不調の表れでもあるのではないかと言われています。アメリカでは2021年に、私の専門分野である子どもたちのメンタルヘルスが「国家の危機と認定せざるを得ない状況にある」と国と学会による発表があり、日本ではコロナ禍に小中高校生の自殺者数と小中学生の不登校者数が過去最高を記録したとの報道があったように、子どものメンタルヘルスは未だかつてない危機にあります。

 ただ、コロナ禍では、子どもに限らず辛い思いをしていない人はいなかったでしょう。将来の計画がなかなか立てられないもどかしさ、コロナの新たな波が来るたびに感染者数の増減を気にして外出を控えたり、友人との集いをキャンセルしなければならない残念な気持ちなど、終わりが見えない薄暗い気分、やり場のない思いを抱え、SNSでつぶやいたり書き込んだりした人も多いと思います。

2023.05.19(金)