一年中かき氷を作るからこそ、季節感を表現

 「この『茶房 オクノシブヤ』は僕にとって、2022年、新宿に開いた『茶寮億万』に続いて手がけた2店舗め。こちらはカウンター6席、テーブル席8席の小さな店舗なので、お一人お一人におもてなしする気持ちでかき氷を提供したいと思っています。和菓子屋で長く修業した経験を生かして、和菓子や和食の美しさや技術を取り入れ、旬の素材を使ったかき氷や、桜や花火、ひまわりなど季節の風物詩をモチーフにしたかき氷もお出ししていこうと考えています」と、江良さん。

 梅雨の季節を彩るのは、艶やかな「紫陽花」です。淡い紫色で氷を包むのは、ラベンダーが仄かに香るバタフライピーのシロップです。トップに絞ったミルクのエスプーマの上には、紫色の寒梅粉と、シャリッとしたつやぼし錦玉を。そばにはキラキラ光る角切りの錦玉羹と粒餡、錦玉羹で白餡を包んで作られた紫陽花の花(葉は抹茶の羊羹)も添えられています。提供直前に上からレモンのシロップをかければ、バタフライピーのシロップがところどころ青色に変わり、紫陽花のようなグラデーションに! 美しさにうっとりしてしまいます。

 食べ進めると、中にはブルーベリーを合わせた白あんや、ブルーベリージャム、豆乳クリーム餡が隠れていて、すっきり、穏やかなフローラル感と果実味がマッチ。器の底に忍ばせた粒餡が〆となり、江良さんが描き出す味わいのストーリーが完結します。

“お食事系氷”も積極的に作っていきたい

 少し変化球がお好みならば、季節限定のメキシコ産濃熟アボカドが主役の、「アボカドはサラダ」を。料理をかき氷で表現した「お食事氷」として、試行錯誤の末に江良さんが完成させたひと品です。

 ベースは、自家製練乳とマスカルポーネ、醤油を合わせたソース。これに、アボカドクリーム、マリネしたトマトとクリームチーズ、セミドライトマトのオリーブオイル漬け、アーモンドスライスなどを組み合わせ、上にはベビーリーフやオリーブオイルも。

 クリームチーズの塩気やアーモンドスライスの食感がアクセントとなり、アボカドがとろりと濃厚なサラダをいただくような、新感覚のおいしさに驚かされます。そしてまた、アボカドクリームには白餡が加えられていると聞き、びっくり。「たぶん、僕にしかできないアボカドのかき氷です」と、江良さんは笑います。

 「かき氷の魅力は、素材=氷が透明で、味がないこと。イメージした味が自由に、そのまま表現できます」と語る、江良さん。

 合わせるソースやクリーム、具材によって、刃の角度を微調整して削り具合を変え、重ねる密度も変えるといい、その緻密さに職人としてのこだわりが感じられます。

「氷の上に重たいものを乗せる場合は密度を高めに、そうでないものは極限までふわふわに。個人的にはなるべくくっつかず、さらさらした氷が好きですね。口に入れた時に氷からシロップがジュワッと出てくる感じをイメージして削っています」

2023.05.16(火)
文=瀬戸理恵子
撮影=佐藤亘