まだまだ厳しい暑さが続く今年の夏。食べたくなるのは、ひんやり冷たいかき氷です。

 今ではかき氷専門店も増え、さまざまなかき氷が楽しめるようになりました。そんななかでも、ぜひ味わいたいのはパティシエの技と感性で生み出されるかき氷! めくるめく感動が待ち受けています。

 かき氷界・最高峰ともいえる、パティシエたちが作るかき氷を3軒ご紹介。このかき氷を食べるまで夏は終われない!

» #1 【東京・代々木】あずきとこおりを見る
» #2 【東京・桜新町】アンフィニを見る
» #3 【東京・吉祥寺】プレスキル・ショコラトリーを見る


通年・かき氷で勝負する専門店が初めての夏!

 今、熱い注目を集めるかき氷専門店の筆頭といえば、2022年1月、東京・代々木にオープンした「あずきとこおり」です。

 JR代々木駅から歩くこと約5分、小田急線の高架が間近に迫る場所にお店があります。シックなグレーの壁に囲まれた扉を開けると、ハイチェアーの並ぶカウンター席が7つ。

 無駄がなくそぎ落とされたライトグレーの空間は、まるでかき氷を最高に引き立たせるためのステージのようで、凛とした美しさが漂います。

 かき氷のつくり手は、店長の堀尾美穂さん。ミシュランの2ツ星に輝き、2022年7月に発表された「世界のベストレストラン50」でもランクインした、フレンチレストラン「フロリレージュ」で、6年間パティシエを務めた経歴の持ち主です。

 これまでも「フロリレージュ」で「ガリガリレージュ」と題し、レストランならではのかき氷を不定期でふるまうイベントを行ったり、東京で行われた「サロン・デュ・ショコラ」に出店してかき氷を提供したりするなど、堀尾さんのかき氷はすでに大人気。今回が満を持しての「フロリレージュ」卒業、そして専門店のオープンとなります。

定番の「あずきとメレンゲ」はあえて日本の味を主役に

 かき氷のメニューは常時5種ほど揃い、2週間に1回程度のペースでラインナップが替わります。そのなかで唯一、通年で提供されている定番が、「あずきとメレンゲ」です。ミルキーでさらりとした自家製の練乳をまとわせたふわっふわの氷に上には、キャラメルのような風味が漂うサクサクのメレンゲをたっぷりと。

 その美しい白のグラデーションの中から現れるのが、とろーりとしたお餅とメレンゲのソース、そして艶やかに粒がきらめく小豆です。食べ進めれば次々に多彩な食感が現れ、絡み合って生まれる味わいのハーモニーにワクワク、ドキドキ。

 「小豆は、旨みがあって風味のよい北海道十勝産のえりも小豆を取り寄せて炊いています。あんこではなく小豆として食べてもらいたくて、甘納豆の手法で粒を残しつつしっとり、やわらかく仕上げています」と、堀尾さん。

 日本の古き良きものを大切にしていこうという思いは、店名からも伝わるとおりで、氷もすべて栃木県日光市「松月氷室」によるこだわりの天然氷を使い、羽のように薄く削って極力押さえず、ふわふわの食感を生かしているそうです。

シーズン限定「ピーチメルバ」は桃のやさしい甘さがご馳走

 味の組み合わせや構成はフランス菓子やデザートから発想することも多いとか。「ピーチメルバ」は、バニラアイスクリームに桃のシロップ煮をのせ、ラズベリーソースをかけた伝統のデザートをかき氷で表現しています。

 フレッシュな桃とコンポートにした桃、カスタード風味のエスプーマ(泡状のムース)、桃のコンポートのシロップ、桃のソース、ラズベリーソースなどが氷とともに重なり合い、甘酸っぱいクラッシュした冷凍ラズベリーと、香ばしくカリカリしたアーモンドのヌガティーヌがアクセント。

 上にはふんわりケーキクラムもかけられていて、やさしい表情を浮かべます。口に運べば桃のみずみずしさと力強い果実感、カスタードのまろやかさが混じり合い、広がるのはかき氷を超えた贅沢感。食べ応えもたっぷりです。

ときには炎の演出も。瞬間の美味をつかまえて

 「一番に考えるのは、レストラン出身のパティシエがつくるかき氷だということです。素材も一般には出回らず、レストランだからこそ使えるようなものを使ったり、傷があったり見た目が良くないフルーツを農家さんから直送してもらって、それをパティシエならではの技術でソースやコンポートに加工したり。フキノトウや黒トリュフ、アマゾンカカオ(自らも料理人の太田哲雄さんが扱うペルー産カカオ)なども使います。

 『苺とシブースト』や『沖縄パッションフルーツとシブースト』のように、お客様に楽しんでいただけるよう、目の前でかき氷の上に絞ったクリームを焼き上げることもあります」と、堀尾さん。

未知の体験。ポテトチーズの甘じょっぱいかき氷も登場!

 なかには、ほんのり塩気のあるインカのめざめ(ジャガイモ)のピュレと、練乳、カマンベールチーズのエスプーマ、ひよこ豆のサラダを組み合わせた「インカのめざめ」のような、料理的発想による驚きの組み合わせも! ほの甘いヴィシソワーズを思わせる味わいが目からウロコのおいしさで、上には、発想の原点になったという揚げたてのポテトチップスが。パリパリした食感と塩気が心地よいアクセントとなり、後を引きます。

 「目指しているのは、ほかでは食べられない、ちょっと手のこんだかき氷です。パティシエは生地やクリームでケーキをつくりますが、かき氷は生地が氷になったようなものだと思うんです。その生地に粉や卵に邪魔されることなく自由自在に味がつけられるのがすごくおもしろいところ。可能性は無限大です。でも、冷たいから味や香りが伝わりにくくて、実はめちゃくちゃ難しい! やればやるほど奥深いです」と、堀尾さんは話します。

 そのうえで最後まで食べ飽きることがないよう、3層を基本にかき氷を組み立て、シロップやソース、エスプーマ、メレンゲ、ガナッシュなどを重ねて多彩な味わいと食感に仕立てるのが、堀尾さんの真骨頂。これまでの概念の一歩先行くかき氷には、新たな発見と驚きが満ちています。

スペシャルなその他のメニューにも注目

 「あずきとこおり」は通年のかき氷専門店ですが、かき氷以外のメニューもないわけではありません。

 堀尾さんが丁寧に炊き上げたあずきを使ったフレンチトーストは、あずきの味に合わせて焼いてもらうというブリオッシュで。世界的に活躍する「フロリレージュ」川手寛康シェフが作る季節のスープも味わえます。

 今後は台湾をはじめ海外への進出も見据え、「日本の文化としてかき氷を世界中に知ってもらいたい」と話す堀尾さん。挑戦はまだまだ続きます。

あずきとこおり

所在地 東京都渋谷区代々木1-46-2 グランデュオ代々木 1F
電話番号 なし
営業時間 11:00~18:00
定休日 水曜
※予約優先(7日前の21:00から受付)。キャッシュレス決済のみ
https://azukitokouri.com/

2022.08.24(水)
文・写真=瀬戸理恵子
撮影=鈴木七絵(プレスキル・ショコラトリー)