近年のヒット作から考える“タイムパフォーマンス”とは

 「生き急ぐ」という言葉がぴったりな、効率的に見えて実は負担が増しているのではないかという懸念……。このことに見出した「疲弊」というテーマに呼応するのが、タイパだった。タイパは先述したように時間対効果のことだが、「コスパ」という言葉に伴う「効率」という考え方と、「タイパ」が内包する考え方では、私見も多分に含むが――微妙にカバーする範囲が異なるように思える。それは、「豊かさ」が評価基準に含まれているか否かということだ。

 豊かさから考えるタイパとは、つまり「費やした時間に対して得られる恩恵」の値が大きければ大きいほど良い、というものになる。それが仮に短時間でなくても、「コンテンツに費やした時間の満足度」が高ければいい。この考え方は自分の中では非常にしっくりくるもので、いま世の中で受け入れられているコンテンツ、或いは享受の仕方をみていてもその傾向にスライドしてきた感が強い。

 例えば「整う」をキーワードとするコンテンツの代表格として急速に人気が加速したサウナやソロキャンプ、或いはグランピング等は、SNS疲れ等のデジタルデトックスとしての効能もある(コロナ禍のステイホーム期間を経て、他者との接触が少ないアウトドアレジャーの需要が高まった点も追い風に)。

 これはある種の自然回帰願望の表れともいえ、文明が進みすぎた結果野人化する人々を描いた村田沙耶香の短編『土脉潤起』『生存』や高瀬隼子の『水たまりで息をする』にも通じるところがあろう。一つの“時代の気分”といえそうだ。

 これをタイパ的な感覚でみると、ファストとは真逆のスローな時間の過ごし方なのだが「緩やかさ」が「豊かさ」につながるため、パフォーマンスは向上する。自然の中でゆったりと過ごす時間――“丁寧な暮らし”の疑似体験といえるかもしれない――は、情報のインプットという意味では無駄が多いかもしれないが、その無駄こそが心の平穏や満足感=豊かさであり、タイパ的には逆に効率がいいのだ。

 映画においては、日本でも予想以上の人気を獲得した『RRR』が興味深い。本作は約3時間の超大作で、上映時間を拘束時間としてネガティブに捉えがちなファスト至上主義者からしたら到底耐えられない長さだろう(インド映画的には決して長いものではないが)。ではなぜ、本作は日本国内の興行収入15億円を突破するヒットを記録しているのか?

 その理由は、3時間を費やすに値する満足感が得られるからに他ならない。ド派手なアクション、キレッキレの歌唱&ダンス、熱い友情ドラマ……様々な要素がてんこ盛りのサービス満点の内容であり、他のコンテンツでは味わえない濃密な3時間が約束されているとなれば、それはユーザー的には大いにアリなのだ。

 興収10億円を突破した映画『BLUE GIANT』も同様で、圧巻の演奏シーンを“体感”でき、鑑賞後の満足度が高いためリピーターも多いと聞く。国内興収100億円を突破した特大ヒット作『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』『トップガン マーヴェリック』も、臨場感を重視した体感映画だ。元々のコンテンツ力の強さを抜きにしても、『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』は「音楽ライブ」「スポーツ」と“生”の興奮=フィジカルの歓びになるべく近づけようとする創意工夫が随所に感じられるし、実際に戦闘機を飛ばして撮影するなど“本物感”にこだわった『トップガン マーヴェリック』の臨場感は凄まじい。

2023.05.20(土)
文=SYO