コロナ禍を経た次なるキーワードとは

 ゲームにおいても、スマッシュヒットを記録した『ホグワーツ・レガシー』のようにオープンワールド形式(広大なフィールドをプレイヤーが自由に散策できる)のものが増えてきた。オープンワールドは没入感の高さややり込み要素が多い分、クリアするまでに時間もかかる。サクッと楽しみたい人には不向きだが(作品によってはストーリーをサクサク追える短縮モードも搭載)、やはりここにも「長く楽しめる」=「豊かな時間が続く」というユーザー側の意識と、それをかなえることを重視した作り手側の思惑が感じられる。

 先ほど「タイパには豊かさという判断基準がある」と述べたが、これは時間に対する考え方においての話で、コスパも本来は豊かさをゴールとするものだったはずだ。少ない投資(コスト)でより多くの恩恵(パフォーマンス)を得ることができれば、生活は豊かになる。

 そう考えると、大目的は変わらぬまま、コスパ→疲弊→タイパとスライドしてきたということなのかもしれない。エンタメコンテンツが増えすぎ、虚実入り交じった怪情報やフェイクニュース等も氾濫するなか「情報の取捨選択」が個々人の必須スキルになり「なるべく多くの情報を取りに行く」から「信用できるものだけを取り込む」へと思考が移ってきたことも大きいだろう。

 ここまで述べてきたことはあくまで個人的な見解だが、一つの肌感覚として、日々エンタメに接するなかでこのような傾向があると受け止めている。では、この先に待つ“次なる時代の気分”とは何なのか? こちらも私見だが、2023年の元日に放送されたNHKの経済教養ドキュメントシリーズ最新作「欲望の資本主義2023 逆転のトライアングルに賭ける時」にそのヒントを感じた。

 こちらは世界の識者に取材し、現状の分析や課題解決の提言を行う番組だが、その中で「イノベーションは援助によって生まれる」「富の独占ではなく共有がカギ」というような主張がされていた。天才がいてもパトロンがいなければそれはイノベーションにはならないというのはある種当然のことだが、後に続く「共有」というテーマと合体すると捉え方がより深まる。

 これは“知の分配”であるオープン・シェア(自身の技術を公開することで業界全体のレベルアップが生まれる)とも密接に結びついており、「競争」とは真逆の考え方である「共有」が、実は新たな豊かさにつながるというのだ。

 奇しくも地球全体がコロナ禍という試練を経験したいまは、全世界の人々が“わかる”共通体験が生まれたということでもある。ポップカルチャー的な観点からいえば、物語における共感の種がこの星全体に蒔かれたということ。そうした意味でも、次なる時代のキーワードは「連帯」なのかもしれない。

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

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2023.05.20(土)
文=SYO