その頃、YouTubeの中で一番流行っていたのが、ファーストテイク動画だった。
プロのアーティストが一発撮りで歌う「THE FIRST TAKE」。その動画からブレイクしたアーティストや名曲がたくさん存在した。それのオマージュをいろんなユーチューバーや音楽をやっている人、そして芸能人もみんな始め出した。歌手が本業じゃない人の歌う姿は新鮮だったし、想像以上に素敵な歌声を聴かせる人もいて、再生数はものすごい数字を叩き出していた。
僕らもそれに倣ってやってみることにした。歌を歌うことは好きだが、自分の歌に自信は全くなかった。大好きなクリープハイプさんの歌を歌えればそれだけで満足だった。
クリープハイプさんの「栞」と、自分のプロフィールの特技欄に「女性の曲も原曲キーで歌える」と書いていたので、たまに証明するために歌ったりしていた「愛をこめて花束を」の2曲をレコーディングした。
本家ファーストテイクと同様一発撮りで行ったため、撮影はものすごく早く終わった。レコーディングブースで歌うのは楽しかった。またいつかやれたらいいねーみたいなことを3人で話していた。
そして、「栞」をアップロードした。
それからすべてが変わった。
動画を見た人が拡散をして、それを見た人がまた拡散してくれるループが起き、YouTubeの急上昇ランキングにもランクインして動画の再生回数は瞬またたく間に増えていった。
普段あまり芸人にも興味を持たれていない影の薄い僕だったが、いろんな人がこの動画に反応してくれた。最初に言ってくれたのがパンサーの向井さんだった。向井さんがやっておられるラジオでこの動画の話をしてくれた。そのおかげでさらにこの動画は広まった。向井さん、とても感謝しております。
ついには尾崎世界観さんもコメントしてくださって、それだけでもこの動画をアップした元は何十倍も取れていたのだが、そこから加藤浩次さんの「スッキリ」に取り上げていただいたり、いろんな番組にお笑いのネタではなく、歌で呼んでもらえるようになった。
2023.05.03(水)
文=ほしのディスコ