矢部 哲代さんがいるデイサービスは、楽しそうですね(笑)。
哲代 うちは五右衛門風呂で99歳までは自分で薪をくべて沸かしとったけど、今は危ないけえね、デイサービスの風呂に通うようになったんです。
体操もおしゃべりも全力出して楽しんどります。あそこはね、風呂はええし、ご飯もおいしいの。ご飯が私にはちいと足りんのですけど。
矢部 食べ過ぎたら健康によくないから、哲代さんの体のことを考えてくれているんですよ。
哲代 そうやった。物事は表裏一体、悪いほうを見て悲しがらずに、ええほうを見んといけんかった。手の甲はしわしわだけど、手のひらはつるつる。ひっくり返せばええこともあるんじゃけ。
矢部 そうやっていい方に考えて、自分をご機嫌にしているんですね。いつも笑顔ですし。
腹が立ったときはどうするんですか?
哲代 今更ね、恐い顔もできんようになってしもうて。
矢部 嫌なことがあって、腹が立ったときはどうするんですか。
哲代 黙って唾を三回飲む。黙っとりゃそのうちに収まりますから。あとはノートに書く。寂しさ、悔しさ、不安を感じたときにね。
矢部 書くとやっぱり気持ちが整いますか?
哲代 そうですね。負の気持ちを誰かに渡したら、受け取った人が困るでしょ。自分で処理せんと。そうやって煩悩や妬みを手放して、その代わり「ああ、嬉しい」「ああ、おいしい」と大きな声に出して、楽しい瞬間を存分に味わっているんでございます(笑)。
矢部 哲代さんは、お話も面白いし、聞き上手でもありますね。
哲代 そんなに褒めんで(笑)。
矢部 今日はいいお話をいっぱい聞くことができて、本当に楽しかったです。ありがとうございました。
哲代 遠くから来てくださってね、ありがたいことです。
石井哲代/いしいてつよ
1920年生まれ。20歳で小学校教員になり、56歳で退職後は畑仕事に勤しむ。26歳で同じく教員の良英さんと結婚。2003年に良英さんが亡くなってからは一人暮らし。100歳を超えても元気な姿が中国新聞などに紹介されて話題に。
矢部太郎/やべたろう
1977年生まれ。芸人・マンガ家。1997年に「カラテカ」結成。『大家さんと僕』(新潮社)で第22回手塚治虫文化賞短編賞受賞。近著に『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)、『楽屋のトナくん』(講談社)など。
2023.04.17(月)
文=臼井良子