微生物の作品なんです
そこに現れた、ハッピを着た白髭の「まるや」の浅井信太郎社長が咳払いをひとつして、「八丁味噌は微生物の作品なんです」と静かに話し始めた。
説明によると、醸造業を営んでいた「まるや」が「八丁味噌」に取り組み始めたのは江戸時代から。今も変わらず、大豆と水と塩だけで発酵させる昔ながらの製法で味噌を作り続けている。大豆を選別して洗い、水を含ませ蒸し、つぶして丸めたものに麹菌をつけて繁殖させるのだそうだ。この大きな積み石はその仕込み桶。味噌玉麹に塩と水を加えて、熟成させている最中なのだ。
「なぜ木桶の上に石積みをしているのかって? 二夏二冬、じっくりと熟成させるのが八丁味噌の特徴なんです。熟成を均一化するために木桶の中に均等に重さをかける必要があるので、これだけの石を積むんです。味噌の熟成度合いをみながら石の重さを変えるんですよ」
石積み一筋11年
とにかく川の石、これがベストらしい。既製品のブロックだと味噌の熟成度合いに対応できず桶が傾いてしまうのだ。
この石積みの技術が八丁味噌の味を決めるのだそうで、「まるや」には石積み専門の職人がいる。石を積み続けて11年になるという石積み親方、染次一郎さんにもお話を聞くことにした。
「味噌が6トン入った木桶には石を3トン積んでいます。上手に積むと地震が起きても石たちが内側に傾いて締まるので崩れないんですよ」と、はしごに登りながら、ひとつ60キロ近くある石をあっちにこっちに動かしている。
傍目には、同じような重さの石を動かしているようにしか見えないのだが、染次さんは「動かすべき石は分かります。石のほうから私の顔を出してくれ、と言ってくるから」とつぶやいた。
い、石に顔が……!? 毎日、触れあうと石の顔と心も分かるのか。もはや職人の域を超えている。
2023.03.26(日)
文・撮影=白石あづさ