芸人になるのも大変だとよく言われますが、棋士はそれよりもずっとずっと狭き門をくぐらないとなれません。僕にとってプロ棋士は、ドラゴンボールの超(スーパー)サイヤ人みたいな存在なんです。中でも加藤一二三九段は、史上初めて中学生でプロ棋士になった方。

「神武以来(このかた)の天才」とまで言われた人に「ひふみん、まだやで」って、僕は何という失礼をしてしまったんだろう、と思っております。

「ふじもと」の鰻は、将棋連盟ではお詫びやお礼の印に棋士がふるまう、世間で言えば虎屋のようかんみたいな存在なんですね。この本で改めてこの店の凄さを学びました。

 先崎先生と初めてお会いしたのは、室谷由紀女流三段が挑んだタイトル戦の最終局を観戦に来ないか、と瀬川晶司六段に誘って頂いて、将棋会館に行った時なんです。先崎先生は室谷三段を対局前からずっと指導していて、本書にも登場する鈴木大介九段と駆け付けておられたんです。これは大変なところへ来てしまった、と思いました。

 控室でプロの棋士たちが局面を検討している時のトークって、外国語レベルでわからないんですよ。「2八銀」「4六…」みたいな数字のやり取りが続いて、時折りみんなで一緒に笑ったりしている。

 何がおもろいねん!

「あのー、この次の一手の意味ってどういうことなんですか」と恐る恐る聞いてみたら、先崎先生はふっと表情を変えて「ああ、これはですね」と、解説して下さるんです。まるで闘気をまとって戦っていた超サイヤ人たちが、天空から降りて人間に優しく教えてくれるみたいで、人知を超えた存在を感じた瞬間でした。

 第二局に出てくる蕎麦屋「ほそ島や」には、将棋を好きになってから行きました。

「メニューの中で、棋士に意外と人気なのがカレーライスと中華そばである。私が棋士になって三十数年、これは変わらない」と本書にありますが、当然、僕もこのどちらかを食べるつもりだったんです。

 ところがメニューを出されたら、他に食べたいものがいろいろあって長考に沈んでしまい、あろうことか鳥南蛮そばを注文するという悪手を指してしまいました。いや、美味しかったですよ、もちろん。

2023.03.28(火)
文=高橋 茂雄(サバンナ・お笑い芸人)