これまでのスポーツ漫画と違う「剥き出しのエゴ」
一方、主人公の潔は全国行きがかかった試合中、ゴールキーパーとの1対1の局面で味方にパスをし、結果シュートを外して敗退。「もしあの場面でシュート撃ってたら俺は――俺の運命は変わってたのかな?」と悔やむも、「チームプレーして負けたんだからしゃーない」と無理やり自分に言い聞かせる。そんな彼のもとにブルーロックの招集レターが届き、運命が大きく動き始めるのだが……。
会場に登場したプロジェクトのコーチ・絵心は、300人の高校生を前にこう告げる。「日本サッカーの組織力は世界一だ 他人を思いやる国民性の賜物と言える でもそれ以外は間違いなく二流だ」「11人で力を合わせて戦うスポーツ…? 『絆を大事に』? 『仲間のために』…? 違うんだよ。だからこの国のサッカーはいつまで経っても弱小なんだ… 教えてやる… サッカーってのはな… 相手より多く点を取るスポーツだ」と。
ここまでだけでも第1話からとにかく攻めた内容であることがわかるが、絵心は続けて言い放つ。「日本サッカーに足りないのはエゴだ 世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない」。これは『ブルーロック』を象徴する名ゼリフであり、日本サッカーのウィークポイントを的確に言い当ててもいる。さらに言うなれば、これは日本人の特性だ。
その後のエピソードで、日本人の献身性と犠牲心を称賛しつつ、野球を引き合いに出して「役割を与えられると強い」国民性だと解説する絵心。それ故に世界に通用する日本人のポジションは中盤のミッドフィールダーと、90分通して攻守に走り回るサイドバックなのだ(これはこれまでの日本サッカー史が証明している)。
そのうえで彼は言う。「サッカーにおいて得点を奪うというのは相手の組織を“破壊する”という行為 つまりストライカーとは“破壊者”だ!」と。だからこそ秩序に縛られないエゴイズムを開発すべき――というのが絵心の理論だが、この部分はサッカーに限らずビジネスシーン等でも言われていること。奥ゆかしさは必ずしも美徳ではなく、時として成長の妨げにもなる。
これまでの国内サッカー漫画を含むスポーツ漫画は、「For the team」精神が描かれることが多かった。『ブルーロック』はそれらと真っ向から対立するエゴ剥き出しの作品であり、“イカれた”作品というワードにつながる。このように、本作で描かれるのは現状への批判と、凝り固まってしまった常識の破壊。だが単なるディスりに終わらないのは、シビアさ以上に夢があるからだろう。
誰も現実視できていなかったW杯優勝のロードマップを描き、参加者たちに負荷をかけることで闘争本能を呼び覚まし、ストライカーとして覚醒させていく。そこには少年漫画の特徴である“熱さ”があり、個性豊かなキャラクターが絵心によってエゴまみれになっていくさまが面白い。
2023.03.25(土)
文=SYO