ぶっ飛んでいる個性的なキャラクターたち

 ブルーロックでの日々の中で最も化けるのが、主人公の潔。最初こそエゴの欠片もなく、味方にパスしてしまうような性格だったのが、闘争心に火が付くと「うるせぇよ天才」「ぬるいんだよ」「俺たちの邪魔すんなっつってんだよ ヘタクソ」と暴言を吐きまくり、21巻では「お前だけは100%殺す」と鬼気迫る表情で言い放つ。

 主人公が完全に狂気に染まった姿がここまで多く描かれるスポーツ漫画も珍しく、この辺りも“イカれた”要素のひとつだ。

 そこに付随するのが、サッカーというチームスポーツの新たな解釈だ。先ほどのエゴの話にも通じるが、『ブルーロック』では時として味方同士でボールを奪い合ったり、自分のゴールのために味方をおとりに使ったりするなど、「自分以外は皆ライバル」という意識のもとにバトルが展開。

 そもそもブルーロック内での試合は基本的には急造チームで行われ、攻撃の練度を上げたり仲間同士の絆を育んだりする物語とは一線を画す。あくまで、自分の勝利のために他者と組むという思考なのだ。だからこそ、全員がギラついておりキャラも濃くなる。

 潔の狂いっぷりも強烈だが、他のキャラクターも負けず劣らずぶっ飛んでいる。ブルーロック内トップランカーの糸師凛は普段は超クールキャラだが、覚醒する(劇中では「FLOW状態」と呼ぶ)と口が開きベロが出っぱなしのヤバい形相になり、「ぐちゃぐちゃにしてやる」と言い出す。こうした振りきれた表現の数々が熱量を高め、極限状態における進化をビビッドに演出している。

 ただ、こうした異常性が映えるのは、前述したとおり読者がノレるような緻密な構成になっているから。日本サッカーの弱点を事細かに説明する物語の前提部分もそうであるし、各キャラクターが段階を踏んで強くなっていくストーリーも練られている。それを促すのが、ミッションの数々だ。

 絵心は潔たち“才能の原石共”に、ストライカーに必要な意識改革を施し、自分以外の相手にボールをぶつければ鬼がスライドする「鬼ごっこ」形式のゲームや、試合に勝ったら相手チームから一人引き抜ける「花いちもんめ」形式のゲーム等、アイデア性にあふれた試練を与えていく。『カイジ』然り『イカゲーム』然りのサバイバルゲーム=“ステージもの”の面白さも内包しているため、サスペンスとしても見ごたえが保証されている。

 能力の開花や技の会得といった進化は、スポーツ漫画やバトル漫画の王道だ。潔は突出した武器のないプレイヤーだったが、絵心の「世界一のストライカーに必要なのは成功(ゴール)の“再現性”だ」という言葉を受け、己のゴールの方程式を見つけようともがく。

 まずは「戦況を察知し、予測して動く視野と脳」に秀でていると気づき、その能力を最大化するために最適なポジショニングと「ダイレクトシュート」を掛け合わせる。しかしそれではあるレベルまでは戦えても、世界一には程遠い。そうなったときに潔は自分の思考をゼロから組み立て直し、新たなる進化を遂げていく。

 通り一遍のサクセスストーリーではなく、何度も絶望し、己の非力を呪い、それでも「世界一のストライカーになる」という目標のためにまた立ち上がる姿は、実にヒーロー的だ

 凡才だった潔が己の足りないスキルを補って強敵たちと渡り合い、「適応能力の天才」と呼ばれる展開は読む者を熱狂させるドラマ性に満ちている。魅力的なキャラクターが登場するほど、そして彼らが心身ともにたくましくなっていくほど「最後に残るのはたった一人」という前提の重みが増し、続きを読みたくなってしまう悪魔的な仕掛け――。

 『ブルーロック』は日本漫画界に現れたゲームチェンジャーであり、ヒットの条件もクリアした「新味と王道」の融合作品。この先イカれっぷりがどこまで限界突破していくのか、楽しみに追いかけていきたい。

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

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2023.03.25(土)
文=SYO