現実とオーバーラップさせる仕組み
『ブルーロック』はいわば、スポーツ漫画にサバイバルものを組み合わせた特殊構造。原作者の金城宗幸が『神さまの言うとおり』『僕たちがやりました』の作者と聞くと合点がいくだろうが、18歳以下の若者たちによる人生をかけたサッカーバトルが緊迫感たっぷりに展開していく。
実際、レギュラーの座をめぐる競争はスポーツにはつきものだが、本作は「監獄」で自由を奪い、「最短で日本代表入りか、未来永劫権利剥奪か」という選択を突き付け、選手たちをふるいにかける。
現実にこんな計画が始動したら、各方面から非難囂々だろう(実際、劇中でも保護者や日本フットボール連合、マスコミ等からバッシングが起こる)。そうした荒唐無稽さがまさに“イカれている”と評される所以のひとつだが、なぜこのような計画が始動したのか――という理由は、実に筋が通ったもの。
W杯は4年に1度のサッカー最強国を決める大会であり、現実世界で日本は初出場の1998年からベスト16の壁を打ち破れていない。出場国32カ国が8つのグループに分かれ総当たりし、上位2チーム=16カ国がトーナメントに進める――というのがW杯のフォーマットだが、日本はW杯常連出場国となり、グループリーグは勝ち上がれてもノックアウト形式で敗れ去る……というのが現状。
『ブルーロック』ではそうした戦績を踏まえ、「世界一のストライカーを創る」驚天動地の計画に踏み切った、という説明がなされる。つまり、初期設定が現実とオーバーラップする仕様になっているのだ。
この約25年で、日本サッカーは飛躍的に進化してきた。しかしフル代表のW杯における戦績だけを見れば、数字上は踊り場状態。そうした閉塞感をぶち破り、世界一を獲ることだけに振り切ったプロジェクトを描く『ブルーロック』は、確かにイカれている。
ただ、劇中で叫ばれる危機意識自体は、この国のサッカーを愛する人々にとって無視できないものではないか。むしろ、W杯優勝を実現するために何が足りないのかを本気で突き詰め、ドラスティックな改革を断行するさまには、「日本もトップになれるかもしれない」「この作品についていけば、その方法論を教えてくれるのではないか」という期待感すら漂う。
それを熱量然り展開然り“やりすぎた”のが、『ブルーロック』。第1話から、現状の問題点をバシバシと指摘していく。日本フットボール連合の会長は「儲かってるからいいじゃーん 結局サッカーってビジネスだよ」「改革なんかして儲かんなくなったらどーすんの?」とぶっちゃけ、「本気で信じてんの? 日本がW杯優勝できるって!?」と続ける。
つまり、日本サッカーのトップたちが現状維持しか考えておらず、強化を行うためのビジョンを持っていないということがシニカルに描かれるのだ。
余談だが、会長の名前は不乱蔦(ぶらつた)。これは明らかに国際サッカー連盟 (FIFA) の前会長ゼップ・ブラッターをもじったもの。彼は2015年のFIFA汚職事件に関与していた人物であり、こうした毒気たっぷりの仕掛けも利いている。
2023.03.25(土)
文=SYO