素敵な脚本には、どの役もそこに居る意味がある

――「初恋の悪魔」も「拾われた男」も、舞台『いのち知らず』も夢中になって拝見しました。仲野さんのお芝居を観ていると、役の人物の感情にとても強く共鳴してしまいます。ある瞬間、自分の心が、登場人物とシームレスにつながる感覚になるというか。どういうことを目指されて、ああいう演技になるのでしょうか?

 僕も観客として観ているとき「この気持ちわかるなあ」と思えるようなお芝居が好きなので、等身大の役をやるときには特に、感情移入してほしいなと思いながらやっています。観ている人が物語の世界に没入できるようなことができたらいいなと思っていますね。

――では、映画『すばらしき世界』の津乃田のように、共感しづらいような人物を演じるときには、どうやってご自身のなかで役を成立させるのですか?

 素敵な脚本には、どの役もそこに居る意味があるんですよね。脚本が伝えたいメッセージを届けるために、役には必要な役割があります。それを理解した上で、自分自身の熱や思いを乗せられたらと思いながら演じています。僕自身というよりは、脚本家の方が書かれた太いメッセージと一緒に心中できるような、そういう俳優でいたいなと思います。

――俳優として、演技のうまさを見せたい、上手に表現したいというエゴみたいなものが生まれてくることはありませんか? それとも、それは極力消そうとするのでしょうか?

 物語を的確に面白く、豊かに伝えるためだったら、演技にうまさを求めることは悪いことではないと思うんです。ただ、演技のうまさだけが際立ってしまうと、観る人にとってはうるさく感じてしまうので、そこのバランスは監督に手綱を引いていただくのが理想なのかなと思います。

――舞台では、観客の反応は気になりますか?

 これはもう、役者のサガだと思うんですけど、「昨日ここでウケたのに、なぜ今日はダメだったんだろう」とか、そういうのは気になりますね。ただ、「今日はいい芝居ができたな」と思ったときに限って、全然リアクションがなかったり、自分ではうまくいかなかったと思った日に限って称賛されたりするので、自分の感覚はあまり当てにならないですね(笑)。

 演劇においては、お客さんの反応に一喜一憂するのではなく、稽古場で積み上げたものを本番に届けることが一番なのかなと思います。

――落ち込むことはありますか?

 ありますあります。

――そこからどうやって這い上がるのですか?

 「終わったことだし」と切り替えるようにしていますね。以前はもっと引きずっていたと思うのですが、良くも悪くも少しずつ諦められるようになりました。前は「諦めないことが正しい」と思っていたけれど、そんなこともないのかなと思うようになりました。手放していくことも大事なのかなと。

――俳優として、将来こうなりたいというビジョンのようなものはありますか?

 昔はありましたけど、いまは具体的な目標のようなものは特にはありません。ただ、いくつになっても、素敵な作家さんや監督と仕事をしたいという気持ちは今後も変わらず持っていると思います。そのために必要とされる役者でありたいなと思います。

 10代から俳優をしているので、この仕事のことは少しずつ理解できてきているし、限界もわかる。でも、その外側、自分の想像のつかないところに行きたいですね。やっぱり新しいことが好きだし、わからないことがわかるようになることも好き。いままで以上に挑戦し続けたいなと思います。

2023.03.28(火)
文=黒瀬朋子
撮影=今井知佑
スタイリスト=石井 大
ヘアメイク=高橋将氣