ミャンマーに生まれ育ち、小学4年生の時に来日して中学2年生の時にスカウトされ、芸能活動を始めた森崎ウィンさん。歌手として、俳優としても活躍し、近年はミュージカル作品でもその才能を発揮している。

 その森崎さんが次に挑むのは、帝国劇場で初ミュージカル化される『SPY×FAMILY』。原作はシリーズ累計発行部数2,900部を突破した超人気コミックで、森崎さんは鈴木拡樹さんとのダブルキャストで主人公のロイド・フォージャーを演じる。

 この凄腕スパイ役を通して森崎さんはどのような新境地を拓いていくのか。今回は作品への取り組みをはじめ、俳優・森崎ウィンさんの素顔に迫る。


ブロードウェイミュージカル『ピピン』の出演で感じた“変化”

――2022年にはミュージカル『ピピン』で主役のピピンを演じましたが、この作品への出演は、ご自身にとってどんな経験でしたか?

 正直言って、めちゃくちゃ楽しかったです。千穐楽を迎えるまでの過程では辛いこともありましたが、最終的には“もし再演があるならば、もう一回挑戦したい”という気持ちを芽生えさせてくれた作品でした。

 身体を鍛えるなど、簡単には乗り越えることができない壁が多すぎて、それをすべてこなしたとは思えていません。そのやることが多いことに、やり甲斐を感じました。“僕もここまでできるんだ!”と、今まで知らなかった“自分”を知ることができました。1人の人間として、変わったということを実感しています。自分にとって、大きな成長でした。

“スパイ”を演じることへの期待とは?

――俳優は演じることでいろんな人物になることができますが、“スパイ”にはどんなイメージを抱いていますか?

 僕は映画の『007』を観た誰もが一度はジェームズ・ボンドに憧れる時代に生まれたので、彼が使っていた“ちっちゃなスパイグッズ”を駆使したいという思いがあります(笑)。舞台だと客席から見えませんから、もっと違う演出になるとは思っているんですが……。

 ダブルキャストで同じ役を演じる(鈴木)拡樹さんもおっしゃっていましたが、スパイとして表向きには完璧な人間だからこそ彼が抱えているバックボーンというものがどういうものなのか、興味がそそられますね。ロイド・フォージャーも男性として憧れを抱く存在だと思います。それから、スパイといえば“いかにして人に気づかれずに任務を遂行するか”ということにも興味がありますね。

 謎めいているからこそ、彼の裏にあるものが知りたい。そんな魅力がある彼に自分がなれるものならなってみたい、そう思わせてくれる人物です。僕自身が黄昏(たそがれ、ロイド・フォージャーのコードネーム)と似ているところは、1ミリもありません(笑)。だからこそ僕としても新しい境地にたどり着くのではないかなと思っています。

――森崎さんが演じるロイド・フォージャーは与えられた極秘任務を果たすために、超能力者の少女・アーニャと、殺し屋の女・ヨルとともに〈仮初めの家族〉として暮らしているという設定です。アーニャは、人の“心の声”を聞くことができますが、もしその才能があるとしたら森崎さんは誰の“心の声”を聞いてみたいですか?

 (2022年の)製作発表記者会見の冒頭で声を発したときも「なんか声が変だぞ、緊張しているみたいだぞ」って、僕自身の心の声を吐露しましたが、僕はわりと自分の“心の声”を自分で言ってしまうタイプですね(笑)。結構、ストレートな人間なので、思った事がすぐに顔に出てしまいます。

 もし人の“心の声”が聞けるとしたら、誰の声が聞きたいかな……。それこそ演出家の“心の声”を聞いてみたいですね。舞台の演出家とか映像の監督とかの“心の声”って、一番気になるかもしれません。「オッケー」って言っていても、本当は何を思っているのだろうと(笑)。

――スパイとは裏の顔を持つ職業です。森崎ウィンさんに裏の顔はありますか?

 もちろん人間ですからいろんな顔を持っていて、良いとか悪いとか関係なく、あると思います(笑)。当然、プライベートでいる時の自分と現場にいるときの違いはありますから。でも、僕の裏を見たら、“全然違うぞ”ということはないかもしれません。

――役を演じるときは役の気持ちで物事を考えますか。それとも役を演じているご自分を俯瞰しているような感じなのでしょうか。

 僕は、役を自分に引き寄せていくというよりは、役に自分を近づけるというタイプだと思います。その時に役として、本当に考えたり、感じたりしているという感覚です。それは森崎ウィンとしてリアルに感じているという状態なんです。

 今回もロイド・フォージャーの扮装をしてみると、客観的にスパイを見ているというより、リアルに自分がロイド・フォージャーになっていくということを実感しました。

歌手とミュージカル俳優との違い

――歌手としても活動されていますが、ミュージカルの作品で役として歌う時とシンガーとして歌う時は切り替えすることはあるのでしょうか?

 そうですね、ミュージカルは歌の前後に芝居があるので、ストーリーの流れの中でその心情を台詞の延長として歌う努力をするんです。ただ、使う喉は役の時のほうが自分の楽曲を歌うときに使うポイントよりも、いろんなところを駆使しているかもしれません。すごく軽いところで歌ってみたりとか、あえてガサガサのハスキーな声を作って歌ったりとか。

 声は心情を表現する手段でもあるので、役のいろんな感情を表現するためにミュージカルで歌う時のほうが声の幅を広げようとしているのかもしれません。

2023.03.05(日)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=KEIKO
スタイリスト=森田晃嘉