『蜘蛛巣城』は、シェイクスピアの四大悲劇の一つとして知られる『マクベス』を日本映画界が世界に誇る名匠・黒澤明監督が日本の戦国時代に翻案し、1957年に公開された映画作品。能・狂言の様式を応用し、日本的な無常観のある戦国スペクタクル作品として知られているこの作品が劇作家、脚本家、演出家、俳優として活躍している赤堀雅秋さんの演出で舞台化される。

 映画では戦後の日本を代表する俳優である三船敏郎と山田五十鈴が主人公の鷲津武時役とその妻・鷲津浅茅役を演じた。舞台作品ではこの夫妻を早乙女太一さんと倉科カナさんが演じる。

 今回は2022年のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』やフジテレビ『ミステリと言う勿れ』、テレビ朝日『六本木クラス』といった話題作に出演し、注目を集めた早乙女太一さんにお話を伺った。


“世界のクロサワ”の名作の舞台化に挑む

――『蜘蛛巣城』への出演を決めた理由を教えてください。

 実は、黒澤監督の大作の舞台化ということより、KAAT神奈川芸術劇場で上演される作品だということと、赤堀雅秋さんが演出をなさるということでお引き受けしました。

 赤堀さんとは2017年にシアターコクーンで上演された『世界』でご一緒させていただいたのですが、それが僕にとってものすごく大きな経験となりました。

 普段の僕は割と衣裳で着飾ったり、殺陣や踊りをしたりする派手な舞台に立つことが多いのですが、赤堀さんの作品はそぎ落とされていて、日常的な感じがしました。人間ならば誰しもが持っている繊細さや愚かさのある役どころをさせていただいたことが、とても嬉しかったです。

 登場人物たちに愛情を持ってキャラクター作りされていることも伝わってきました。赤堀さんが書かれた言葉に感情のすべてが表れているわけではなく、言葉の裏にあるこぼれ出るものにその人の感情が見えるみたいなところが、すごくリアルに感じました。細かいところには奥行きがあって、そこに人間性が映し出されるんです。

 今回の作品はそれとは真逆で、ものすごく感情を言葉にしていますし、時代劇でもあるので、全く別の作品づくりになるのでしょうが、僕としてはそれが楽しみです。

――早乙女さんが演じる鷲津武時にはどんな印象をお持ちですか?

 シェイクスピアの『マクベス』を題材に日本の出来事として描かれていて、今回は内容がぎゅっと凝縮した印象です。

 僕が演じる武時は、激動の時代に生きて、生と死の背中合わせにいる感じがしました。生きることと死ぬことに対する“今”の距離感とは全く違います。武時は、時代としても、環境としても、“生きること”には恐怖感や疑心暗鬼を生じるような状況にいます。

 台本を読むまでは武時本人の欲望に飲まれている印象が強かったのですが、武時の欲望が全面に出ているのではなく、主人公を取り巻く妻や仲間という環境から生まれた渦に飲まれてしまっているのだと思いました。

 しかも武時と妻の浅茅は、別々の人間なのに夫婦一心同体となって生きる道を懸命に歩んでいるので、それを大事にしたいですね。“2人だけど1人”のような感覚の夫婦にチャレンジできればいいなと思います。そして武時が唯一信頼している幼馴染みの親友との関係性も大切にしたいです。

赤堀雅秋さんがシェイクスピア作品を通して描いたものとは?

――シェイクスピア作品が舞台を日本に置き換えて描かれることで、どんな世界観になるのでしょうか。

 僕はシェイクスピアの作品に詳しくないので感覚的な答えになってしまいますが、シェイクスピアの作品は、言葉にして伝えるというイメージがあります。

 それに対して赤堀さんの作品の魅力としては、言葉にならない一瞬から溢れ出た感情を察することができるところだと思うんです。

 日本人って、あえて言葉にしないことも多いじゃないですか。それがシェイクスピアとは対照的ですが、今回の作品には“間”というものも結構あると思ったので、その“間”の取り方が、日本独特のものになり、赤堀さんならではの繊細さが出るのではないかと思っています。

――早乙女さんにとって本作への出演はどんな意味を持ちますか?

 出演は1年半くらい前に決まりました。自分でも不思議なのですが、この公演のことが頭によぎると体が反応して、心臓がドキッとするんです。喜んでいいのかどうかわかりませんが、本能的に反応しているというのは自分にとってすごく大きなことなのかなと思っています。稽古が始まる前にそんな感覚になることは今までなかったので、早く稽古がしたいです(笑)。

2023.02.23(木)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=奥山信次(B・SUN)
スタイリスト=八尾崇文