この記事の連載

「○○ちゃんのママ」という自分の名前を持たない世界で

──現在、いろいろなメディアでご活躍されている和田さんですが、平野レミさんと同じ土俵に立っているという実感はありますか?

 そもそも、「平野レミ」さんと私は違う人間なので、比べたことがないです。

 結婚してメディアに出るようになった最初の頃は、「すごいな、平野レミさんの嫁というだけで、こんなにいろんなところから声がかかるって、おかあさんってすごいんだな」みたいに思っていましたね。

 何もかも圧倒的に違うから「料理家としておかあさんと同じフィールドに」とかは、その頃から1ミリも考えていなかったと思います。あとはおかあさんから「あなた、料理家になるんだったらこうよ」とか、一切言われずほったらかしにされていたのも、いまにして思えばありがたかったなあと思います。

──ご自身の存在に説得力をもたせるために、食育インストラクターの資格も取得されました。なぜ食育インストラクターだったのですか?

 せっかく時間をさいて勉強するなら仕事のためだけじゃなくて、自分の個人的な育児とかにも役に立つほうがいいかなと思ったからです。また、調理師や管理栄養士は学校に通わないと資格取得できませんが、食育インストラクターは通信教育として自宅でも勉強ができたので、夜、子どもを寝かしつけてからや、昼寝をしている間に勉強して合格しました。

──そこまでストイックにご自分を追い込んだのは、その修業の先に料理家としてのご自身の未来を思い描いておられたからですか?

 そんな立派なものじゃないですよ(笑)! 正直なところ、息が詰まりすぎていたんです。はじめての育児、はじめての家事に。

 家事や子育てはもちろん立派な仕事ですが、それまで私が生きてきた世界とは何もかも違いすぎました。「○○ちゃんのママ」という、自分の名前も持たない世界で、何をするにも私自身の希望や考えは後回しにしなくてはいけないように感じていました。

 助けを求めればまわりに助けてくれる人はたくさんいたんですけど、若くして子どもを生んだ当時の私には、子育てが唯一の自分のアイデンティティで、子育てを人に頼ったら、自分が自分である意味すらなくなってしまうと、漠然と不安を抱えていたんですよね。

 そんななか、食育インストラクターの勉強をしたり、料理をしたりする時間は、100%自分のための時間なので、すごく頑張って勉強するというよりも、自分を取り戻す時間として、やればやっただけ救われるような感覚がありました。

2023.03.03(金)
文=相澤洋美
写真=鈴木七絵