この記事の連載

 料理愛好家でシャンソン歌手の平野レミさんの次男と結婚した和田明日香さん。「平野レミの嫁」として注目されるなか、独自のやり方で、家庭料理を伝えています。誰かの毎日に寄り添いたいという和田さんに、これまでのことや料理への情熱をお聞きしました。(インタビュー【前篇】を読む)


「専業主婦なんだから」という気負いは一切なかった

──和田さんが注目されたきっかけは「平野レミのお嫁さん」でした。あれだけ有名な料理愛好家の方が姑だと、お料理をすることが怖かったのではないですか?

 そんなふうに、考えたこともなかったです……。結婚したばかりの頃は「平野レミさんがお姑さんってすごいね」とよく言われたりもしましたが、みんなが勝手におかあさんのことを知っているだけで、私にとってはそこまで特別なことじゃないのになあと思っていました。

 それに、夫は朝仕事に行って、働いて夜帰ってきますけど、その間、私は別にやることがないから、「じゃあ、できる人ができる時間にできることをやろう」という感じで、自然に料理をするようになりました。

──「できる人ができる時間にできることを」というのは、ご実家の方針ですか?

 方針とかいう大げさなものではなく、母も父も共働きで忙しい人たちだったので、帰ってきた人がバーッとつくってバーッと食べる、という感じでした。

 夜に母が帰ってきて、えいやってごはんをつくり、父と「お疲れ~!」とビールとか呑みながら今日あった仕事の話なんかをしているのをみて、「大人って、自分の世界があって、かっこいいな」と自然に思うようになったんですよね。私にとって、食卓とはそういうものでした。なので「専業主婦なんだから私が」と気負ってやっていた、というよりは、そのときやるべきことをやっていたら、なんとなくいまのやり方になった、というのが現実です。

離乳食・長女の食事・大人の食事を同時に作るために

──レミさんもよく、「お料理はレシピ通りにつくらなくてもいい」とおっしゃっています。料理を続けるコツは何だと思われますか?

 私は自分が全然料理ができなかった頃は、レシピ頼みで、レシピがなければ何もつくれなかったんです。いろんなところでお話していますけど、最初は「鰹出汁ってどこで売ってるの?」「ひたひたの水の“ひたひた”って何?」ってレベルでしたし、「ささみは筋をとって細かく切る」と書いてあっても、「筋」が何のことだかわからない状態でした。

 「調理時間20分」と書いてあるレシピを、1時間かけてもつくれなかったこともありましたが、レシピを無視したり、アイデアを自分なりにアレンジしたりできるようになってきたころから、俄然料理が楽しくなってきました。

 「レシピ通りにつくる」と息が詰まっちゃいますから、私のレシピを踏み台として自分なりにアレンジしよう、と思って眺めていただくと、少し料理が楽しく思えるのではないかと思います。

──まったくの料理初心者が、和田さんのその心境にたどり着くまでには、どのくらいの時間がかかるものでしょうか。

 どうだろう。人にも必要性にもよると思いますけど、2~3年? 3~4年? くらいじゃないですかね。私は2歳違いで3人子どもを生んでいるので、いちばん上の子が4歳の時は2歳児と0歳児を抱え、離乳食もつくりつつ、子どものご飯もつくって大人が食べる分もつくる、みたいな感じだったので、自分のやり方で動くしかなかったんですよね。だから「何年修業したらこうなります」みたいなのも考えないほうがいいと思います。

2023.03.03(金)
文=相澤洋美
写真=鈴木七絵