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発達障害をカミングアウトすべきかどうか

 自分の中で折り合いがつけられたとしても、他者に自分のコントロール不全感を本当の意味で理解してもらうというのは、苦労するところだと思います。インターン先で、おっちょこちょいミスを何度かやってしまったとき。発達障害に関連する分野のインターンだったので、上司にもきっと理解してもらえると思い「ADHDのため、間違えたときに焦ってパニックになってしまうことがあります。そのときは、代替案を出していただけるとありがたいです。」と伝えました。しかし、「私がいないときはどうするの?」「はっきり言って準備不足です」と言われ、わざわざカミングアウトしなければよかったとショックを受けたことがありました。

 このように、発達障害であることを伝えても、関係性によっては言い訳がましいと思われたり、能力を過小評価されたりすることがあります。発達障害者に関する文献や実際にインタビュー研究を行った中でも、発達障害を障害として納得してもらえず、配慮が得られないということや、能力が低い人というレッテル貼りをされてしまうことが、当事者の悩みとして多く語られていました。理解してくれない人への説得にこだわらない、戦わないことも、精神的ストレスを減らす上では重要だと思います。

 一方で、多様性の尊重や、自分らしさの追求など、個人の事情を考慮していこう! という方向へ社会は少しずつ進んでいます。わたしの所属している研究室では、発達障害であることをかなりニュートラルに受け入れてもらっています。共同研究の中で、苦手な事務作業の負担を減らしていただいて、その分、自分の専門的な業務に集中できたこともありました。

 発達障害も多様性のひとつとして受け入れられやすい時代になってきて、脳・神経多様性/ニューロダイバーシティという言葉もちらほら語られるようになりました。発達障害について考えてみることは、発達障害とは関係がない人たちにとっても、時代に合った新たな価値観を持つことに繋がっているのかなと思います。

 「人には人の事情があるからね」と、個別の事情に思考を巡らせ、努力不足や経験不足以外のいろんな可能性に意識を向けることで、より他者に寛容に、そしてお互いにラクなコミュニケーションができるようになるのかもしれません。

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コッピーちゃん

1994年、東京都生まれ。東京大学大学院の心理学博士課程に在籍中。成人期のADHDの適応に関する研究をしている。ADHDや発達障害を始めとしたマイノリティの人たちが生きやすくなるような情報や自分の体験を多数発信。Twitter:@kopo_adhd

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2023.02.28(火)
文=コッピーちゃん