この記事の連載
- 丸山俊一インタビュー #1
- 丸山俊一さんインタビュー #2
「今のテレビは一生懸命故に、演出が多くなっている」
――そこでお願いしたのが、養老孟司さんだったと。
養老先生とまるちゃんの写真は以前拝見したことがありましたし、先ほどお話ししたような天邪鬼さの象徴のような存在である養老先生にご登場いただこうということでお願いしました。作家の方々も「愛する猫のことなら」とお引き受けくださる方も多く、猫好きで知られていた角田光代さんにもお声がけをして、ひとまず2本を軸に探ってみようということになったんです。
――丸山さんご自身、作家の方々にも興味はあったのですか。
小説に限定したものではなく、もの書く人と猫との関係性に興味がありました。先ほど夏目漱石の話をしましたが、もう一つ、猫との印象的な1枚として、三島由紀夫の有名な写真がありますよね。机に向かっている三島が目の前に座る猫をぼんやりと眺めているあの写真からインスピレーションが湧いたところもあり、もの書く人と猫という関係性を丁寧に積み上げていく、映像エッセイのような番組にしようと思ったんです。
今のテレビは制作者の皆さんが一生懸命、番組を作られているが故に、ストーリーを立てて番組を盛り上げたり視聴者を惹きつけたりするための演出が多くなっています。その中で、むしろ作家と猫だけに淡々とカメラを向ける精神で制作してみたら面白いんじゃないかという思惑もありました。
――テスト版の反響はいかがでしたか?
非常によかったと思います。また、この番組の中では、ほかではあまり見せない作家の方の表情が映されることがあるんですね。初期で印象的だったのは吉田修一さん。金ちゃんと銀ちゃんという猫を飼っていらっしゃるのですが、寡黙でいらっしゃる純文学作家が相好を崩して猫を愛でている姿はとても印象に残りました。
――とはいえ、作家と猫だけに淡々とカメラを向けるという意図を番組として成立させるためには、さまざまな苦労があったのではと思います。
テスト版を制作した時から心掛けていたことですが、まず、猫を被写体として無理にしっかり撮るというよりも、極論、猫が撮れないのであれば撮れない中で何か方法を考えようくらいの精神でいようとしていました。また、カメラの向け方としてもペット番組のように猫を主体とするというよりは、空間の中で動きのあるものとして追っていくことにしたんです。
2023.02.26(日)
文=高本亜紀
撮影=平松市聖