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 これまでもさまざまな文豪たちに愛されてきた猫。空前のネコブームである昨今、NHK・Eテレにて放送されている『ネコメンタリー 猫も、杓子(しゃくし)も。』は、もの書く人と猫との暮らしを静かに、そして丁寧に描いた新感覚のドキュメンタリー番組として注目を集めている。

 猫を愛してやまない作家たちの暮らしの中に佇む猫は、かわいらしいだけの存在にとどまらない。人と対等な共生する存在として描かれる。また、作家が書き下ろしたエッセイを、俳優たちが朗読することで、作家の猫へ対する眼差しを改めて実感できる番組となっている。

 本番組のプロデューサーである丸山俊一さんのインタビュー後編では、ペット番組にとどまらない番組の魅力を大いに語っていただいた。


「脱力型ドキュメンタリー」

――では、この番組を一言で表すならば?

 「脱力型ドキュメンタリー」とでも言えばいいのでしょうか。表現者たちが皆、一生懸命になればなるほど陥りやすい「頑張り」、あるいはネット社会が招く耳目を引くための「過激さ」が溢れる中で、ただフレームの中に猫がぼんやり入ってくるだけの映像から、日常の中に眠っている穏やかな安らぎ、ささやかな幸せの感覚を呼び起こしていただけたら、と思っています。と同時に、自分自身の立ち位置をもう一度考え直すきっかけにもなったら……といいますか。

 たとえば『吾輩は猫である』を書いた漱石の『草枕』は、物語を語らずに小説ができるのかという試み、エッセイのような実験的小説ですが、そこに漱石らしい天邪鬼さが表れている。つまり小説が物語の激しさで人の心を弄ぶようなものになっていく時、いや、小説は筋がなくてもできるんだと言ってるわけです。

 そういう漱石的精神ではないですが、あくせくした現代の中で自分なりの時間の過ごし方や生活の軸の立て方を考えていただく機会になればと思いながら、(番組を)作っているところはあるかもしれません。SNS時代の今は一億総表現者とも言えるかもしれませんが、少しだけ立ち止まって『ネコメンタリー』という映像に触れるひとときが内省する時間になってくれたらという思いもあります。

2023.02.26(日)
文=高本亜紀
撮影=平松市聖