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「まったく違う時間が流れているように感じた」


 だからこそ、この番組に関しても変に気負って「さあ撮ります」というよりは、信頼関係を作った上で、日常のままを淡々と撮らせていただくことによって無理のないロケを進めさせていただいていると思いますし、その精神は猫にも伝わっているのかもしれないなと、感じることもあります。なぜなら、「普段のお客さんだと人見知りするのに、今日は大丈夫だね」と、ロケチームが言われることもありがたいことに多いんですね。つまり、我々のクルーが存在感を出さないことによって、猫の自然な様を撮影できているんだろうと思っています。

――猫はその辺り、非常に敏感なんでしょうね。

 猫は相当な怖がりだとよく聞きますが、それは本能的に生命維持のためにも大事なことなのでしょう。だから、青くさい言い方をすれば、作家の方々とも猫とも信頼関係を築くことがこの番組を作る上での最大の秘訣であると言えるのかもしれません。

――確かにそういった場面は、これまでの放送でも常に見られていますよね。

 例えば、村山由佳さんが執筆で激しくキーボードを打ち続けている腕の上に猫のもみじが顔を乗せスヤスヤと安心して寝息をたてている。作家の皆さんにとっては、「猫あるある」なのかもしれませんが、パソコンで作業していると猫が邪魔をして(書いていたものを)消してしまって困ると言いながらも、皆さん、むしろ嬉しそうに語られるのが印象的です。

 もの書く人と猫というのはある種、普遍的でよくあるストーリーに見えるかもしれませんが、丁寧に観ていただくと、ちょっとした断片に作家の方々の素顔や日常の機微みたいなものが見えてくるんです。そうした「もの書く人」と猫の組み合わせの数だけある、それぞれの不思議な関係性にカメラを向けようということは、いつもスタッフとも話していることですね。

 また、24分30秒というわずかな時間の番組ではありますが、観てくださった方からは「まったく違う時間が流れているように感じた」だとか、「気忙しい日常を過ごしている中で、もう1回、自分の生活を考えてみた」というような感想をいただくことがあり、そういう伝わり方をしていることを嬉しく感じることもあります。もちろん猫は素朴にかわいいですし、作家の意外な表情が見られるというのも嬉しい感想ですが、視聴者の方がそういったささやかな幸せのかたちや人生の機微を発見していただける瞬間が何より嬉しいですね。

ネコメンタリー 猫も、杓子(しゃくし)も。 - NHK

https://www.nhk.jp/p/ts/Z52R515WW1/
空前の猫ブーム、まさに「猫も杓子も」猫という時代に、「もの書く人々」は猫に何を見るのか? 「もの書く人のかたわらにはいつも猫がいた。」

次の話を読む竹野内豊さんや上野樹里さんの朗読を通じて美意識に触れ…「ネコメンタリー」制作者が猫から教わったこと

2023.02.26(日)
文=高本亜紀
撮影=平松市聖