前哨戦を経て、いよいよブランドウナギが登場

 お店の人のアドバイスを聞きつつ、今回は「太物青うなぎ」を白焼に、「和匠うなぎ」を蒲焼に、通常のウナギを「鰻重」というチョイスにしてみました。

 最初にやってきたのは「太物青うなぎ」の白焼。ふつふつと湧き出たように身の上で脂が煌めいています。香りもすごい。ウナギの中でも特に生育のいい上物ウナギを昔から「青うなぎ」、「青手(あおて)」と呼ぶそうで、脂のりがよく肉厚、でも皮はやわらか。まさにウナギ界の最高級品。ウナギは皮下脂肪がのると背の色が黒から青に変貌するのです。

 『八べえ』の青うなぎの白焼をパクリ。パリッと香ばしい身を頬張れば、肉厚な身から脂がジュースみたいにじゅわーっ! くどくないクリアな脂と、皮と身の間のゼラチン質が口の中でとけあって、塩しかふっていないのに甘さを感じるほど。いい脂って甘いんだな…と教えてくれます。そしてカリカリに焼けたしっぽの濃い旨みに悶絶必至……!

 続いて「和匠うなぎ」の蒲焼をいただきます。ふわっとしたきめ細かな身質で、飲みこんだ後の鼻に抜ける独特の香りや余韻。旨みがきゅっと詰まっている感じがします。

 「和匠うなぎ」は天然ウナギ以上の味と栄養価を目指して品質改良された国内最高峰の養殖ウナギで、贅沢にもエサに甲殻類を与えているとのこと。通常の養殖ウナギはイワシのエサが多いそうですが、それが臭みに繋がるケースも高い。河口近くにすむ天然ウナギはカニやエビなど甲殻類をよく食べているそうで、「和匠うなぎ」は食べるものも水の質にも限りなく天然に近い環境で育てられているのです。

 〆の「鰻重」はあえて通常のウナギにしてみました。というのも『八べえ』は、「五右衛門蒸し」というとても珍しい蒲焼の蒸し方をしているので、「蒸焼」と「地焼」で食べ比べてみることに。

 通常の関東のウナギは、(1)白焼き、(2)蒸す、(3)タレをつけながら焼き上げるという工程ですが、「五右衛門蒸し」は(2)で蒸さずに20分ほど湯通ししてから焼き上げるスタイル。茹でることでウナギ自体が持つ水分を逃さず、ウナギの細胞を壊して柔らかくする、臭みを抜くなどの効果があるといいます。湯通しする茹で汁は、もはやウナギ出汁のような濃厚スープ状態になっていて、ウナギから出た脂や旨みが茹でている間に身にもどってくるような、摩訶不思議な調理法。

 かつて千葉県ではこの焼き方の店も多かったそうですが、ウナギの身が非常に柔らかくなるために焼くのが技術的に難しく、五右衛門蒸しで焼ける職人が減ってしまったそう。焼き上がった蒲焼はとても柔らか。でも蒸しの強いとろける食感とはまた違った、静かに存在感を放つ味わいなのです。

 ブランドウナギと天然ウナギのラストオーダーは19:30。「青うなぎ」は通常扱っていますが、「坂東太郎」、「和匠うなぎ」、天然ウナギは不定期で入荷。必ず何かのブランドウナギは取り扱いがあるのでSNSなどをチェックしてみて。

 至福のウ時間の前後は、ぜひ亀戸天神でお参りを。ウナギはいませんがカメがたくさん池で甲羅干ししていて、ほのぼのした気分になれます。藤の花の季節がみごとなので、5月頃は特におすすめです。

【今月のウ話】

ウナギが青いって意外な感じがしますか? でもけっこう色には個体差があるものなんです。天然ウナギは川に棲んでいるときは黄ばんで「黄ウナギ」、海にいるときは銀色になって「銀ウナギ」とか「銀化」と呼ばれることも。養殖ウナギは基本的に背が灰褐色(黒)~青緑(これが青うなぎですね、青というより深緑色といった感じ)で、おなかは白。ちなみにウナギはぬるぬるしているけれど、ちゃんとウロコがあるんですよ。その数、なんと6万枚! ウロコがものすごく小さいから、体をくねくね動かして遠くまで泳げるそうです。

八べえ

所在地 東京都江東区亀戸3-2-8 斉魯ビル1F
電話番号 03-3682-7327
営業時間 11:30~15:00(L.O.14:00)、17:00~21:00(L.O.20:00) 日曜・祝日11:30~21:00(L.O.20:00)
定休日 月曜
https://hachibee.jp/

嶺月香里(みねつき・かおり)

天然ウナギも泳いでいる東京の江戸川のほとりに生まれ、ウナギをこよなく愛するフードライター。レストランやレシピ取材のほか、漁港や食の生まれる工場まで、幅広く取材。ウナギ店めぐりは仕事を離れた趣味でもある。小学生の時に参加した地元のどじょうつかみ大会で、余興ではなたれていたウナギを執念で捕まえたことがあるのが静かな自慢。

Column

教えて! ウナギ大好き、ウ大臣

ウナギは好きですか? 白いごはんにこってり蒲焼。「今日はウナギ!」という日は無性にテンションが上がります。食や旅の取材で日本中を飛び回るウナギ大好きライター・嶺月香里さんが「ウ」の話を聞かせてくれます。

2023.02.01(水)
文・撮影=嶺月香里