――想像以上に和やかな現場だったのですね。

 制作現場はわからないですけどね。少なくとも、アフレコ中は穏やかな監督の姿しか見ていません。私が子どもだからではなく、他の共演者に対してもそうだったと思います。

――アフレコの中で印象に残っているシーンはありますか?

 印象に残っている、とは少し違うかもしれないですけど、最初に台本を読んだときに、千尋のセリフを見てびっくりしましたね。「……」とか「!!!」、「???」みたいな記号のオンパレードで。「どうやって声だけで表現したらいいんだろう」と悩みました。

――実際にはどのように表現を?

 

 例えば、千尋が転んでいるシーンに「!!!」ってセリフがついていたら、「自分が転んだらどんな声を出すかな」と想像して声を入れていました。そのあたりは、私と千尋はどんくさいところが似ているから、想像しやすかったのかもしれません。

 あとは映画の序盤で、ハクに「まずは釜爺のところに行って仕事をもらっておいで」と言われて移動している途中、階段が外れて「やあーーーー!!!!!!」って叫びながら駆け下りるシーンがあるんですよ。

 そこでは、音響監督から「息が続く限り叫び続けてください」と指示されて。何回かNGを出しながらなんとか録り終えたのですが、叫びすぎて呼吸困難になりましたね(笑)。

映画公開の1ヶ月前に千尋の声を撮り直した理由

――紆余曲折ありながらもアフレコを進めていったんですね。

 でも、予定どおり録り終えて、あとは公開を待つだけだと思っていた公開1ヶ月前に、ケガをしたハクを千尋が助けるところから最後までの流れを録り直したんです。

――それはなぜでしょう。

 監督から「これは千尋の成長の物語だから、後半は前半よりもしっかりした声でやってほしい」という指示をいただいて。

 公開直前にもかかわらず急な録り直しだったから、「私の演技、ダメだったのかな」と少し落ち込みました。それに、“しっかりした声”ってなんだろう、どんな声を求められているんだろうってものすごく悩みましたね。

――最終的にはどう演じたのですか。

 録り直し自体も1日しかなかったので、あれこれ考えたりする余裕がなくて。がむしゃらにやった、という感じなのですが……。でも、やりながら私も千尋と一緒に学んで、成長していったんだろうなと思います。

撮影=石川啓次/文藝春秋

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2023.01.22(日)
文=仲 奈々