「セコマ」。この三文字を口にするとき、北海道民の顔に誇らしげな表情が微かに浮かぶことに気付いたのは、私自身が東京から札幌に移住して半年が経った頃だった。
セコマ(2016年にセイコーマートから社名変更)とは、北海道発祥のコンビニチェーンである。店舗数こそ約千百店と最大手のセブン-イレブン(約2万1000店)には遠く及ばないが、日本生産性本部が発表する顧客満足度調査(2022年度)では2位セブンを6.1ポイント引き離して、7連覇を達成している。道民の小鼻が膨らむわけだ。
特筆すべきは長引くコロナ禍でコンビニ各社が軒並み売上を減らす中、セコマだけが20年6月以降、22年8月に至るまで前年同月比を上回る業績を挙げている点だ。なぜセコマだけが強いのか。
必要なものがちゃんと揃っている店
「コロナだから、と何か特別なことをやっているわけじゃないんです」と語るのは、セコマの丸谷智保会長だ。
「我々はずっと『売上を上げるためにどうするか』ではなくて、『お客さんに必要とされるためにはどうするか』を考えてきました。コロナ禍であれば、なるべくひとつの店で買い物を済ませたいだろう。お弁当や牛乳だけでなく、できれば醤油とかバターも買いたいはずです。
ですからそういう生活に密着した商品を棚から切らさないように、お客さんが必要なものがちゃんと揃っている店であることを徹底してきました。結果、コロナ前よりお客さま一人当たりの購入点数が増え、客単価も上がりました」
客がコンビニに求めるもの
セコマはかゆいところに手が届く――それは一利用者としての私の実感とも一致する。昨今のコンビニ業界は〈客がコンビニに何を求めているのか〉を見誤っているのではないか、と丸谷は言う。
「例えば今、小売業界の多くは素材などにこだわった『高付加価値』のPB(プライベートブランド)商品に力を入れて客単価を上げようとしています。けれど例えば普通のパンの2倍の値段を払って、素材にこだわったパンを食べたいというお客さんの割合はどれほどなのか。僕はちょっと疑問があるんです」
2023.01.20(金)
文=伊藤秀倫