新納 実衣ちゃんって、「時代劇に現代人がひとり混ざったら」っていう、視聴者代表でもある存在だと思うんです。すごく現代的な感覚で「なんでこれができないの?」「なんでそういうこと言うの?」と言ってくれる。そういう人物を書ける三谷さんは、「普通の人の感覚」をとても大事に持っている方なのだと思います。大先生なのに、エマさんなんかバシッと叩いたりしてるし(笑)。

宮澤 ほんとにね(笑)。

 

お互いを思う気持ちは変わっていなかった

新納 史実が分からない中で、全成という人物に血を通わせてくれたのは、三谷さんの知識や頭の良さはもちろんですが、人への愛があるからだと思いました。演出陣もトライを許してくれたし、大河ドラマという時間に余裕がある現場で、半年以上、全成と向き合うことが出来たこともありがたかったです。

宮澤 現実と同じように、関係を育んでいく時間がありましたからね。全成が、義時の父・時政と妻のりくに、頼朝の息子の頼家を呪詛するよう頼まれます。その後いっとき、二人はすれ違ってしまうのですが、誤解がとけた実衣と全成が、呪詛人形をはさんで向かい合うシーンがあるんです。

 ああ、お互いを思う気持ちは変わっていなかったんだな、いい夫婦だったんだなと、ホームに帰ってきた気持ちになりました。けれど次の瞬間、拾い忘れていた呪詛人形が一体だけ映り、雷鳴のようなとどろく。それは全成の死の暗示で……。

新納 オンエアはされていなかったんだけど、実衣が僕の手を取るために立ち上がった瞬間に、全成は「叩かれるんじゃないか」ってビクッとしたんだよね。

宮澤 ちょっとビビらせて「まだ許してへんで」と見せかけるのも実衣らしくて楽しかった。だけど、退場できない身としては、素敵な去り際の人々に羨ましさを感じるところもありました。三谷さんの台本は、どの役の人にもハイライトのような瞬間がある。全成も、頼朝に最後まで忠義を尽くした畠山(重忠)さんも、みんなかっこよく退場して出ていく。

2022.12.29(木)
文=矢内裕子