まずつゆをひとくち。しいたけの香りが立ち上がる。そしてかつお節や昆布の旨味が広がっていく。キッチンカーでこんなにうまいつゆを飲んでいいのだろうか。

 

 かき揚げもカラッと揚がっていてなかなかうまい。そばは茹で麺だろうかやや太めで、あまり都内では見かけない麺である。

キッチンカーのそば屋を開いたワケ

 野村店主に開店のきっかけなどを質問してみたのだが、これがまたユニークであった。野村哲哉さんは以前、長距離トラックの運転手をしていたそうである。「そば、特に立ち食いそばが大好きで、トラックで納品に行った先ではいつも立ち食いそば屋を探して食べていた」という。

 どこの立ち食いそば屋が好きか聞いてみたところ、「日暮里の一由そばが好きで、よくげそ天を食べていた」そうである。「店主だった小森谷さんのこともよく覚えている」という。つまり野村店主は立ち食いそばオタクだったわけである。相当色々な店に行って味を覚えたとか。なんだか野村店主に急に親近感がわいてきた。

 それなら、どこかで修業したのか聞いてみると、「それが全くの独学で、天ぷらもつゆもすべて自分で覚えた」というのでびっくりした。

 ではなぜキッチンカーでそば屋をやろうと考えたのかを聞いてみると、「車が好きで、そばも好きだから必然的にキッチンカーになってしまった」というのだ。確かに納得できる回答である。そして、「この車に乗っていろいろな所でそばを作りたい。武士のようにいろいろな戦場(場所)を駆け巡りたい」と考えたそうである。それで店名を「もののふ」にしたというわけだ。なんかカッコイイ。

そば作りはすべて独学

 しかし、開業までは大変だったそうだ。まず高価なキッチンカーを購入し色々改造する必要があった。保健所から営業許可証を得るために厨房機器をそろえ、動線を確保してレイアウトを考えていったという。

 

 そして基本的に独学なので、すべて手探り。天ぷらは試行錯誤しながら学んでいった。最初はへなへなの天ぷらしかできず、ずいぶんへこんだそうである。出汁やつゆも独学。もしかするとずいぶん高級な食材を使っているかもしれない。

2022.12.14(水)
文=坂崎 仁紀