茨城県石岡市に創業93年の人気老舗そば屋「そば処 丸三」がある。この店が今年11月1日から4種類の新メニューを発売したのだが、その中にポテトを使った「コロッケそば」が含まれていて俄然注目されたわけである。

「コロッケそば」といえば、東日本の立ち食いそば屋ではよく見かける。もちろん、讃岐や大阪、九州のうどん店、また、日本全国の大衆食堂などにはトッピングとして「コロッケ」が置かれている。つまり「コロッケそばうどん」は容易に提供できる存在だ。しかし、老舗のそば屋で発売しているところは滅多にない。

 銀座6丁目にある明治18年創業の「そば所よし田」は「コロッケそば」の元祖的存在だが、ポテトコロッケではなく鶏ミンチを揚げたコロッケを使う。東急東横線都立大学駅近くにある昭和20年創業の「そば処 大菊総本店」では余ったそばをつなぎにした「コロッケそば」を販売している。老舗で販売している店は他にもあるとは思うが、知る限りではこの2店である。

なぜ老舗店で「コロッケそば」を販売するのか

 さて「そば処 丸三」に話を戻そう。こちらの老舗店でなぜ「コロッケそば」を発売することになったのか。訪問して聞いてみることにした。

 JR常磐線石岡駅はJR東京駅から特急ときわで約1時間。柏駅を過ぎて利根川を渡ると急に田園風景が広がってくる。到着した石岡駅は比較的大きな橋上駅舎で東西口ともロータリーなど広いスペースが配置されている。石岡市は南に霞ヶ浦、西に筑波山を望む豊かな土地である。

 西口側に出て、駅前すぐの路地を西の方へ歩いていく。人影は少なく古い家並みが続いている。ゲートボールの公園などを見ながら10分程歩くと、そばうどんの幟(のぼり)と洒落た格子状の外観に老舗らしい「そば処 丸三」と墨で書かれた木製看板がみえてきた。

 入店すると3代目店主の溝口光幸さん(68歳)と奥さん、出前から帰った直後の4代目の溝口俊介さん(40歳)が笑顔で迎えてくれた。

2022.12.03(土)
文=坂崎 仁紀