紫蘇、山椒、茗荷、生姜、唐辛子。実は日本にも、古くからたくさんのハーブやスパイスがあります。

 自身のキッチンでクラフトコーラの開発をはじめ、2018年には国産原料をベースにした「ともコーラ」というブランドを立ち上げた古谷知華さん。開発するなかで、「もしかしたら日本には、まだハーブやスパイスとして認知されていない植物があるのかもしれない」と感じ、クリエイティブディレクターで友人の木本梨絵さんと「日本草木研究所」を設立しました。

 日本の森林をめぐって、原料を探し集めながら、間伐材の活用方法を見出したり、衰退している日本の林業の活性化を目指したりしているふたりが、新たに立ち上げた拠点が「食べられる庭」。

 庭を食べるとはいったいどういうことなのか……? そんな疑問が浮かんだので、話を聞いてきました。


ジンを作ったらみえてきた日本の里山の現状

 話を聞いた場所は、山手線五反田駅から15分ほど歩いたところにある古民家……を改装修繕している所だった。

 昔は実業家の家だったり別荘だったりしたというその家の入口には、品川区から保存樹登録されたクスノキがそびえ、都心とは思えないほど広大な庭があり、緑が生い茂っている。そこでは、赤松と黒松の大木や木蓮、柚子、ヒノキなどもすくすくと育っていた。

 この場所を蘇らせようとしているのは、建築ディレクターの岡村俊輔さんだ。代々木上原でギャラリー「などや」を営む彼は、この古民家を新たな場所として蘇らせようとしていた。

 そんな古民家とは別に、この庭の運営は日本草木研究所が担うことになった。「食べられる庭」と命名されたこの庭で、育った植物から蒸留酒やコーディアルなどを作るほか、庭の植物と触れ合ったり手仕事をしたりするワークショップを企画するのだという。

――ものすごく恵まれたお庭ですね。

古谷さん そうなんです。岡村さんに庭の管理をお願いされたのが始まりでしたが、いざ動き出してみると、この庭はもっとうまく活用できるんじゃないかと思って。いろんなものを植えていく予定です。

木本さん この間はヨモギとドクダミと、モミを植えたんですよ。春になったら芽吹いてくると思うので、楽しみです。

古谷さん この場所のオープンに合わせて、この庭の植物を使ったコーディアルを作ろうと思っています。柚子の葉は、タイ料理で使われるコブミカンの葉とよく似ていて、香りがとってもいいんです。

木本さん ほかにも、赤松の幹は蒸留するとブラッドオレンジみたいな香りになるんです。松の新芽は食べられるんですよ! 金柑にも実がなってきているし、こんなに植生豊かな場所が都心にあるなんて信じられないですよね。ここに人が集まるようになる日が楽しみです。

 ふたりが日本草木研究所を設立したのは、2021年のこと。古谷さんが5年ものあいだ構想を練っていたところに、木本さんが参加して出発した。

――おふたりの出会いは、友だちとしてだったんでしょうか?

古谷さん いえ、はじめは仕事を手伝ってくれるクリエイティブディレクターがいないかな、って探していたところでの出会いでした。

木本さん わたしは当時から自身のブランディングの会社を経営していましたが、 “自分のブランドを持たない自分がブランディングを語るなんて説得力がないな”と思っていた頃でした。

古谷さん ともコーラの経営を通して、ひとりだと行き詰まることもあると思い知っていたので、パートナーの必要性を強く感じていました。一緒にやりはじめたことで、加速して事業化を進められました。

――そして誕生したのが、国産の野生香木を蒸留し加工した「FOREST SYRUP 草木蜜」や日本の間伐材を使って造られた「草木酒フォレストジン」ですね。

古谷さん そうですね。全国でクラフトコーラを作るうちに、日本の食べられる植物の情報が集まってきたんです。今はもうハーブとして使われていない植物も、大正時代までは一般的に活躍していたことも知りました。

 でもその情報はなぜか受け継がれず、今では知る人ぞ知るという存在になっているんですね。そうして植物を探しに山に入ってみると、日本の森林問題も見えてきて……。プロダクトのひとつである「フォレストジン」は、“木を飲む”というコンセプトなんですが、スギやヒノキなどの間伐材を6割以上使用しています。

 間伐材を使うという目的とともに、上質なプロダクトを生みだして、それらが認められて適正な価格で取引されることで、山で働く人たちの仕事を支えたい、という思いもありました。

木本さん 結果的に出来上がった商品の値段は決して安いものではありません。でも、このプロダクトは、関わる人たちにきちんと還元できるような仕組みで売っていきたいんです。そういう意味でも、「草木酒フォレストジン」をはじめプロダクト全般をしっかり評価していただけたのは嬉しかったですね。

古谷さん 最初の商品をドリンクにしたのもよかったと思います。開けて飲むだけ、というドリンクは手軽だし、いろんな世代に向かって発信できました。時代的にもサステナブルやSDGsという言葉が動きはじめ、クラフトジンが流行にのったことも後押しになってくれたなと。世の中の流れ、そして消費者自身も、モノそのものではなく、その裏側にあるストーリーを知って、そこに価値を見出す意識に変化してきているのでは、という感じがします。

2022.12.15(木)
文=吉川愛歩
撮影=平松市聖