コロナ禍での制約があった頃、人々は互いとの距離を十分にとれる屋外での楽しみを求めた。
英国では、すでにコロナ禍の法的規制は全面解除されているが、国内のカントリーサイドの人気は健在だ。
コロナ禍をはさんで、英国内の旅行者は、「自然に囲まれた可愛い村」よりも「リアルな自然」を求めるようになった。それは環境保護に対する支持の表明でもあり、同じ熱量での取り組みがホテルの側にも求められているのだ。
今イギリスでおすすめのカントリーサイドホテルを4回に渡りご紹介。
持続可能な未来を見据えた手間と時間を惜しまない改築
◆Thyme(タイム)

「ア・ヴィレッジ・ウィズイン・ア・ヴィレッジ」。
英国らしい丸い丘が並ぶコッツウォルズにあるタイムは、自らをそう表現している。61ヘクタールの敷地のなかには、ホテルに料理学校、レストランとバー、ショップ、ギャラリー、スパ、パブ、そしてオーナー家族が暮らすマナーハウスと羊農場があり、まさにひとつの「村」を形成している。

この村は、創設者のカリン・ヒバートさんとその一家が、土地への愛と情熱を糧に、ひとつ、またひとつと時間をかけて命を吹き込んでいった結果、生まれたものだ。

ロンドンで暮らしていたカリンさん一家が、父が購入したこの歴史ある農場跡地に引っ越してきたのは2002年のこと。
物理学者でエンジニアの父は、ただ古きを守るだけではなく、未来をも守る持続可能なエネルギー効率を考え、納屋や厩舎といった建物に、地熱を利用したヒートポンプを設置。

さらに、暖めた空気を逃さぬよう、厚さ30センチもの断熱材を天井に仕込み、その上からオリジナルの屋根を載せるという、当時にしては革新的で、また手間暇を惜しまない工事を施した。

同時に、もともと自然環境と食に並々ならぬ関心と情熱を抱いていたカリンさんは、野菜を育て、土地の恵みを享受するスローフード生活を実践。
そんな背景から、2007年、改築が完成した穀物納屋で、料理学校を開校する。これがタイムの始まりとなった。

2022.12.06(火)
文=安田和代(KRess Europe)
撮影=川上 真
CREA Traveller 2022 vol.4
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。