洋菓子の街として知られる神戸。中心街にある有名店が賑わうのはもちろん、周辺の住宅街にもおいしいと評判のお店が数多くあり、それぞれのファンに愛されています。

 そんな神戸の街に、2022年4月、またひとつ、小さなお菓子屋さんがオープンしました。神戸高速鉄道・西元町駅の北にある商店街・メルカロード宇治川を抜けて東へ曲がった所、やまだまりさんが営む「菓子屋マツリカ」です。

 お店は、毎週金曜、土曜の12時から17時頃までのみの営業。ポツリポツリと来店するお客に、やまださんが笑顔で接客、自身が作るお菓子の魅力をていねいに伝えて販売しています。

 やまださんが作る焼き菓子をご紹介しましょう。

 一番人気は「はちみつカステラ」。平飼いでのびのび育った鶏の有精卵、神戸の街の背後にそびえる六甲山系で採取された「いなだ養蜂園」の森の蜂蜜を使っています。

 「カステラは、卵、蜂蜜、砂糖、小麦粉だけで作るお菓子です。だからこそ、素材が大事」とやまださん。むっちりと弾力があるのに、食べるとしっとり、滋味深い味わい。卵と蜂蜜の優しい香りに、幸せな気分になれます。紅茶はもちろん、日本茶や中国茶との相性も抜群。

 ケーキはその時々にある材料で作られ、季節らしいものが登場します。「良い材料があるから、私らしいお菓子が作れます」とやまださんはにっこり。

 淡路島産レモンを丸ごと使った「ケイク・シトロン」は、甘酸っぱく、レモンのさわやかな香りが口いっぱいに広がります。

 「紅玉のタルト」は、シロップを打ちながら、焦げ目がつくほどしっかり焼き込まれています。サクサクの香ばしいタルト生地と紅玉りんごの酸味が合わさって、見かけ以上に優雅な味わい。

 「柿のパイ」は、ダマンドのラム酒がほんのり香り、柿の風味を引き立てます。パイ生地のサクサク食感が楽しい。

 「ショコラケイク」は、料理人・太田哲雄さんこだわりのアマゾンカカオを使用。「カカオが果実だと実感しました」とやまださんが言う通り、カカオのコク深い香り、後口の酸味が印象的。甘くない大人のためのチョコレート菓子です。

「私はスパイスが苦手なので、ほとんどスパイスは使いません。素材の味を上手く出せたらいいなと、シンプルに作っています」。

 ほろ苦いキャラメルの風味がソテーしたりんごに絡む「キャラメルりんごケーク」、有機栽培のバナナを生地にたっぷり練り込んだ「バナナとくるみのケーク」など、どれも口溶けがとても良い。さつまいもやかぼちゃも、タルトやケーキ、プリンなどにして供しています。

「農家さんの苦労を知っているので、素材を余すことなく大切に使っています。たくさんの方においしく食べていただきたいんです」。

 クッキーもこだわりたっぷり。

 挽きたての神戸産小麦の全粒粉を使った「全粒粉サブレ」は、ザクザク食感と小麦の香ばしい風味。

 「jamクッキー」のジャムは、神戸市西区・竹内さんの「おいCベリー」を使った自家製。甘酸っぱいアクセントが効いています。季節によってジャムは色々変わるのだそう。

 「オートミールクッキー(カカオ)」は、太田哲雄さんの有機栽培アマゾンカカオが香り立ち、噛みしめるほど味わい深い。

 「できるだけ、その日の焼きたてを出したい」と言うやまださん。スコーンも、当日、1個1個手で丸めて焼き上げています。

 神戸産の全粒粉を使った「全粒粉スコーン」は、デコボコ、コロンとした形が特徴で、外はカリッ、中はふんわり。翌日でも、リベイクすると香ばしい小麦の香りが際立ちます。

 「プレーン」、「チョコくるみ」が定番で、季節商品として「いちぢくと紅茶」など、色々な種類があります。

 やまださんが「マツリカ」としてマルシェやイベントに参加するようになったのは、2016年。

「大学卒業後、会社員をしていたのですが、好きだったカフェの仕事をしてみたいと、『アフターヌーンティー・ティールーム』で働き始めたのがきっかけ」。

 その後、兵庫県北部の道の駅を手伝って、たくさんの生産者に出会い、さらに、ヘルシーなデリやスイーツを置く神戸・元町の食料品店「ネイバーフード」で働きます。

「たくさんの良い物に出合い、自然にそれらを使ったものづくりをするようになりました」。

 やまださんは「実は、喫茶店がやりたかった」と、お店にテーブル席を設け、時折、イートインもしています。

 ひと手間かけたプレートで出される焼き菓子を、おいしいドリンクと楽しむことができる日もあります。

 「スコーンは、神戸産の小麦粉を少量ずつ挽いてもらって使っています。挽きたてを焼きたてで出せるのはとても幸せ。焼きたてのスコーンを食べていただく日もあってもいいかな」と、やまださんは、自店を持ってから夢が広がっています。

菓子屋マツリカ

所在地 兵庫県神戸市中央区下山手通9-4-11 島ビル1階
https://www.instagram.com/k.maturica/

Column

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2022.12.11(日)
文・撮影=そおだよおこ