今でも監督の頭の中にある『はだかのゆめ』は100%はわからない

――『はだかのゆめ』のノロはもちろん、青木さんの役はいつも作品の世界に「いる」「生きている」存在です。甫木元監督は「柚くんはすごく困惑していたと思います。 でも、何かわかったフリをするわけでもなく、本番になったらスッとそこにずっと昔からいたかのような佇まいになれるのがすごいなと思って見ていました」とコメントしています。困惑していましたか?

 はい(笑)。

――困惑しながらも、監督の作りたい世界にいることができたのはなぜですか?

 監督への信頼が大きかったと思います。監督は近すぎず遠すぎずのところで一緒にいてくれる感覚がありましたし、人の温度の感じ取り方が自分と遠くないものに思えました。例えば、ノロが両手を筒状にして覗き込む動きは実生活ではやらないことなんですけど、監督に「あそこにクジラがいるんだよ」と言われると、あの動きになりました。

 草原を歩いているノロの後ろからBialystocks(ビアリストックス。甫木元空がボーカルとギターで、菊池剛がキーボードの2人組バンド。『はだかのゆめ』の音楽を担当)がついてくるシーンも、最初は意図がわからなかったんですけど、監督を信頼して、監督の頭の中に入っていく感覚でした。作品の中に「ただいる」ことはものすごく難しいんですけど、頭で考えるよりも、本物の土地と時間があるんだからそれに身を委ねてしまった方がいいなという思いはありました。監督にはいくつか質問しましたが、それに対する明確な答えをもらったというよりは、道標的なものを何個か立ててもらった感じです。

――俳優は、監督を信頼できているならば、監督の意図を100%理解していなくてもいいということでしょうか。

 今回の作品に限ったことでいえばそういうことなのかな……。僕自身、自分の頭で整理した「この役はこういう人物像で」みたいなことを役柄を演じる前に言葉にしてしまうと、言った瞬間に言葉だけにとどまってしまう感覚があるんです。多分監督の中にもそういう感覚がある気がします。だから今回の『はだかのゆめ』に関する「わからなさ」というのは、手放しのわからなさではなく、「思いの通った曖昧さを信じる」という感覚でした。今でも監督の頭の中にある『はだかのゆめ』は100%はわからないけれど、だからこの映画がみんなのものになるんだろうな、と思います。

2022.12.03(土)
文=須永貴子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=小笠原吉恵(CEKAI)
ヘアメイク=嵯峨千陽