「芯で勝負」丸坊主にして決めた覚悟

――曖昧さの肯定は非常に成熟した考え方だと思います。いろいろな作品や役に向き合って、考えを重ねることで、受ける影響はありますか?

 あります。役として重ねた感情や思考が、一時的な経験で終わるのではなく、自分自身の根底に思考や価値観として蓄積していった方が、俳優としても人としても広い視野を持てると思っています。アーティストさんや作家さんと違い、俳優は自分の言葉や自分の世界をダイレクトに表現する仕事ではなくて、他人のものに思いを乗せていくので、俳優個人がそういう思考を重ねた上で、聖人君子的な意味合いではなく、信頼に値する人でありたい。それが役の説得力だけではなく、自分の人間としての説得力に繋がれば、ちゃんとその役を生きることができて、見ている人の心を動かせると今は信じています。

――青木さんのお芝居がなぜ見る人を引きつけるのかがわかりました。その最たるものである『モアザンワーズ』は青木さんのフィルモグラフィーにおいて重要な作品になったと思いますが、ご自身の中で達成感や手応えはありましたか?

 撮影が終わった直後は頭痛が止まらなかったんです(笑)。マッキーってずっと誰に対しても優しくて思いやりを持ってるんですけど、感情が爆発する瞬間がなく、いろいろなものを溜め込んだままクランクアップしたので。でも配信が始まってから、観てくれた人の声や反響を聞いて、みんなと一緒に過ごした時間はちゃんとマッキーとして生きた時間だったんだなと感じることができました。

――最近青木さんに注目するようになった方に、とっかかりとして過去のどの出演作を見てほしいですか?

 これはちゃんと答えたいですね。もちろん全部観てほしいんですけど……(自分の出演作リストを眺めて悩み)「きれいのくに」で! この作品で初めて頭を丸坊主にしたことが、自分の内面的に大きなことだったんです。それまでずっと前髪が重めでマッシュみたいな髪型しかしてなかったですし、おでこも仕事以外では絶対に出しませんでした。

 でも好きな役者さんの“顔”を見ていると、造形ではなく内側の格好良さが顔に出ているなと思うことが多いんです。このドラマで丸坊主にすることになって、ビジュアルがゼロの状態、芯で勝負、みたいなことを初めて経験できました。「これからはこの仕事でやっていくぞ!」と決意をしていたので、役のビジュアルと自分の内面が重なると役に良い影響があることや、衣装やヘアメイクというのは役の内面と密接な関係にあるのだなと、気付くきっかけになりました。これ以降は役によって髪をいろいろと変えさせてもらっています。

――突然ですが、青木さんはBESTY(BE:FIRSTのファン)ですよね?

 はい。BMSGに思考回路が影響されています。SKY-HIさんも小さい頃からライブに行ってますし、SKY-HIさんには多分一番影響を受けています。語り始めたら止まらないので、ぜひまたの機会にお願いします(笑)。

青木柚(あおき・ゆず)

2001年2月4日生まれ。神奈川県出身。16年、『14の夜』で映画デビュー。21年にNHK「きれいのくに」でメインキャストに抜擢、ジョニー・デップ主演作『MINAMATA-ミナマタ-』にも出演。NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」では主人公ひなたの弟・桃太郎役を演じた。

『はだかのゆめ』渋谷シネクイントほか全国順次公開中

高知県・四万十川のほとりで、年老いた祖父と、この地で余命を過ごすことを決意した母、それに寄り添う青年ノロ。彼は迫り来る母の死を受け入れることができず、死者のように徘徊する。そんなノロを見守るおんちゃん。彼もまたこの世の者ではないのかもしれない。息子を思う母と母を思う息子は、互いの距離を測り直していく。

監督・脚本・編集:甫木元空
出演:青木柚 唯野未歩子 前野健太 甫木元尊英
プロデューサー:仙頭武則 飯塚香織 撮影:米倉伸 照明:平谷里紗 現場録音:川上拓也 音響:菊池信之 助監督:滝野弘仁 音楽:Bialystocks
製作:ポニーキャニオン 配給:boid/VOICE OF GHOST
©PONY CANYON
https://hadakanoyume.com/

2022.12.03(土)
文=須永貴子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=小笠原吉恵(CEKAI)
ヘアメイク=嵯峨千陽